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経営における社会保険料認識の重要性

<要旨>

  1. 厚生年金保険等の加入指導は、平成27年度から、国税源泉徴収義務者情報に基づいて行われている。
  2. 日本年金機構は、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合は、立入検査を行い認定による加入手続を実施する。 」としている。
  3. 認定による加入が行われた場合、過去2年に遡って社会保険料が徴収される可能性がある。
  4. 「従業員」がおらず、代表者のみに対して報酬を支払う会社であっても、適用事業所となる。
  5. 法人税等の法定実効税率が約21~34%であるのに対して、厚生年金保険と健康保険を合わせた社会保険料の料率は約30%と大きな差がなくなっており、タックスプランニングとともに、社会保険料認識の重要性が高まっている。
  6. 年間の報酬額は一緒であっても、報酬の支払方法によって、社会保険料が変わってくる。

<詳細>

日本年金機構は、平成27年度年度計画において、厚生年金保険・健康保険等の適用促進について、「平成27年度以降の3か年において優先的に職員による加入指導等に取り組む」としました。具体的には、調査手法では、これまで見られなかった手法が導入され、「国税源泉徴収義務者情報」すなわち、税務当局の持つ給与等支払者の情報に基づき、「文書勧奨」や「加入指導」を行うこととされました。

さらに、「加入指導を複数回実施しても加入の見込みがない事業所」に対する「立入検査」及び「認定による加入手続」は、平成27年度は「必要に応じて」実施するとしていたところ、平成28年度年度計画では、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合」と明確化されました。

すなわち、日本年金機構は、最終催告状を送付しても加入に応じない場合には、職権により認定による加入手続(厚生年金保険法18条2項ほか)を行いますが、この場合、最大、2年間に遡って保険料等が徴収される可能性があります。これは、保険料等の徴収金の消滅時効が2年である(厚生年金保険法92条)ためです。

ところで、厚生年金保険の目的は、「労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上」(厚生年金保険法第1条)にありますが、「労働者」のいない役員(例えば、代表取締役)のみの会社であっても、厚生年金保険の適用はあるのでしょうか。この点、広島高裁岡山支部(昭38・9・23、高裁判例集 第16巻7号514頁)は、憲法25条(生存権)の趣旨を踏まえると、同法において労使間の差異を考慮する必要はなく、「厚生年金保険法第九条にいう事業所に使用される者とは、法人の代表者を含むものと解すべき」としました。すなわち、国民の生活の安定と福祉の向上のためであるから、代表者であっても、法人に使用される者から排除されないと判断したわけですね。こうした司法判断もあり、「法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であって、他面その法人の事務の一部を担任し、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、被保険者」(厚生労働省昭24・7・28 保発第74号)となる運用が続いています。

以上の外部環境を踏まえると、従業員のいる会社の経営者のみならず、取引における信用力や各種税制上のメリットを踏まえて、法人成りを選択した、あるいは法人成りを選択する経営者にとって、社会保険料を認識する重要性は高まっているといえます。実際、法人所得に対する法定実効税率は、資本金1億円以下の会社で、21.42%(法人所得400万円以下の部分)から33.8%(法人所得800万円超の部分)であるのに対し、社会保険料は、報酬あるいは賞与に対して、29.872%(東京都、40歳~65歳、平成28年9月分、健康保険組合ない場合。報酬等を受ける方の負担分含む。雇用保険・労災保険除く。)と同程度です。例えば、株主でもある役員に対して、配当ではなく役員報酬を支払うことによる法人税等の減額効果と社会保険料の増額の程度は、同程度になっている可能性があるといえます。

では、法に基づき社会保険料を支払う中で、経営に与えるインパクトを緩和することは可能でしょうか。厚生年金や健康保険の保険料は、報酬月額あるいは賞与額に基づき定められた標準報酬月額あるいは標準賞与額に保険料率を乗じて算定され、税のように控除項目が定められていないことから、その余地はほとんどありません。ただし、標準報酬月額や標準賞与額には上限があることから、年間の報酬等の総額は同じであっても、支払方法によって、社会保険料が変わってくることがあります。また、現在の法令において、退職金(前払退職金等を除く)は、厚生年金保険法や健康保険法にいう「報酬」や「賞与」や含まれないと解されていることから、税務上の過大役員退職金の問題に留意しながら、報酬や賞与と、退職金とのバランスを見直すことにより、社会保険料を変えられることがあります。