「番外編」カテゴリーアーカイブ

サイバー攻撃を経営者はどう捉えるべきか―ドラマや映画に学ぶ地政学リスクと技術の進化

1.サイバーセキュリティの重要性を認識した2026年10月

日本では、2026年10月に、サイバーセキュリティに影響を及ぼすいくつかの出来事があった。
・多数の民間事業者が、サイバー攻撃を受け、情報流出を相次いで公表
・プログラミング言語PHPの重大な脆弱性が公表され、予防的な対応のため、金融機関や官庁を含むWebサービスが相次いで停止
こうした出来事の中、サイバーリスクに対し経営者はどのような心構えをしたらよいのだろうか。くしくも、2026年10月には、民間事業者にも関係するサイバーセキュリティ関係の法律が施行されていることから、まずは、その点を確認する。

2.2026年「サイバー対処能力強化法」施行が民間ビジネスに与える影響

日本では、2026年10月に、サイバー対処能力強化法に基づく民間事業者の報告制度などが施行された。政府による能動的サイバー防御のための法制度整備という側面もあるが、ビジネス上重要なのは、金融、通信、貨物自動車運送事業者などのうち一定の民間事業者(以下、「特別社会基盤事業者」)に、一定のサイバーインシデントの早期報告などが義務づけられた点である。それ以外の民間事業者にとっては、義務化の直接の対象外であるが、特別社会基盤事業者の取引先は下請け先まで含めるとかなり広範囲と想定される。その意味で、法的な義務ではなく、ビジネスの様々な要請として、上場企業(脚注1)はもとより、中小企業にとっても、一定水準のサイバーセキュリティ対応が求められていくであろう。

3.経営者に求められる情報収集と「地政学リスク」への視座

では、経営者としては、具体的にどのような対応が求められるのであろうか。実務上の正確で詳細な解説としては、脚注2にかかげた国や公的機関の資料などに譲りたい。

本稿では、サイバー対処能力強化法が民間事業者に報告義務などを課すようになった背景(内閣府 法律概要説明資料)に着目し、民間事業者とは一見無関係に見える地政学的リスクが、民間事業者にも影響する点を喚起したい。国際的なパワーバランスの変化の中で、日本の地政学的リスクは、企業経営においても無視できないものと認識されつつあるためだ(脚注1)。

4.ドラマ『GCHQ』にみる現代の情報戦と「反射制御(反射統制)」

現実とフィクションとは峻別すべきであるが、英国の公共サービス放送局チャンネル4で放送されたドラマ『GCHQ:英国サイバー諜報局』シーズン1(amazon配信) は、その脅威をよく描いている。このドラマでは、敵国の能力や意思を弱体化させるため、SNSでの情報操作、民間事業者へのサイバー攻撃、フェイク映像などを利用して社会に混乱や不安を生じさせ、その後、相手国の戦略的意思決定を誘導する「反射制御(反射統制)」という手法が描かれる。民間事業者に対するサイバー攻撃が、単なる情報窃取や金銭的利益の獲得にとどまらず、より大きな国家戦略の一部として利用され得るという認知戦・情報戦の視点は、2026年夏から秋にかけて多数の民間事業者へサイバー攻撃が行われ情報流出が相次いで公表されている現在の日本において、頭の片隅に置いておきたい視点である(脚注3)。実際、情報戦を含むこの「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」の脅威は、独立行政法人情報処理推進機構の「情報セキュリティ10大脅威 2026」にも挙げられている。

なお、ドラマでは、重要インフラ事業者だけではなく、思いもよらない民間事業者が侵害を受け、それが社会不安を増大させていく様子も描かれる。視聴者としては、市井の民間事業者であってもセキュリティ侵害から事業を守り日々の業務を滞りなく進めることが結果として社会の秩序維持に役立つことを認識させられる。他方、人々が容易には分断されない経済社会をつくりあげておくことも、重要な安全保障の一つであると気づかされる。

5.映画『攻殻機動隊』と、技術の進化がもたらす未知の脅威

もうひとつ認識したいのは、技術の進化がもたらす未知の脅威である。足許では、AI技術の進展が著しい。2026年夏から秋にかけて日本国内で相次いだ民間事業者へのサイバー攻撃に使われた可能性のあるサーバーからは、攻撃者がAIを利用して既知の脆弱性の探索やAPI経由の攻撃などを行った痕跡が確認されている(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター 連続不正アクセス事案の攻撃手法に関する調査)。では、AIがさらに高度化したとき、そうしたサイバー攻撃の姿を我々は想像できるだろうか。

1995年に押井守監督によって製作されたアニメ映画「Ghost in the Shell/攻殻機動隊」(amazon配信、netflix配信、hulu配信、unext配信)では、サイバー空間への侵入や情報操作が日常化し、高度なAIも存在する社会が描かれる。そうした中(以下、ネタバレ注意)、物語の中心となるのは、もともと政府機関が対外的な情報収集や工作活動のために開発した高度な人工知能プログラム「プロジェクト2501」である。このプログラムが情報ネットワークの中で自我を獲得し、開発者の意図を超えて行動していく。

この作品は、士郎正宗氏によって連載された漫画『攻殻機動隊』を原作にしたものであるが、サイバー侵害を描いた原作が、生成AIはおろか、インターネットが普及する前の1989年から1990年にかけて生み出されたという事実にも注目したい。我々も、クリエーターの生み出す作品の力を借りながら、技術が進化した先にある経営環境の変化を想像していきたい。

6.激変する経営環境下における「リスク認識」のアップデート

経営者が、世の中で起こっている事象の専門知識(今般でいえばサイバーセキュリティ、情報戦、AI)をすべて理解することは現実的ではない。しかし、経営者には、企業内外の経営環境の変化を捉え、新たなリスクを認識して対応することが求められる。こうしたリスクへの対応が、新たな収益機会につながることもある。当ブログでは、時事問題に触れながら、経営者が認識すべき新たなリスクについて、今後も紹介していきたい。

脚注

脚注1 上場企業向けに東京証券取引所が公表している2026年7月改訂のコーポレートガバナンスコードでは、原則4-4に関する解釈指針において、サイバーセキュリティリスクや地政学的要因等による複数のリスクが全社的リスクの例として挙げられ、また、こうしたリスク対応が収益機会にもつながり得ると明示された。

脚注2 企業のサイバーセキュリティ対応で参考となる国や公的機関の資料例

脚注3 2026年に日本国内で相次いだ情報流出事件について、外国政府が関与した国家的な情報戦の一環であると確認されたわけではない。経営者としては、今後のサイバー攻撃がこのような目的で行われる可能性も、リスク認識の一つとして持っておく必要があるという趣旨である。

既存のメールシステムを維持したまま、Gemini Advancedの高度なAI機能を安全に業務へ取り入れる方法

(要約)
Gemini Advancedの業務利用を目的に、既存のメールシステムを維持したままGoogle Workspaceを導入する場合、以下の手順が有効です。

  • 手順1: Google WorkspaceへのログインIDには、既存のメールサーバーで受信可能なメールアドレスを使用する。
  • 手順2: DNSサーバーで、Google Workspaceのドメイン所有権確認用TXTレコードのみを設定し、メール配送用のMXレコードは変更しない。
  • 手順3: Google Workspaceの管理機能で、Gmailサービスを無効化する。

(詳細)
【Geminiの業務利用とGoogle Workspaceの必要性】個人向けGeminiでは、入力した情報がAIの学習に利用される可能性がありますが、法人向けのGoogle Workspace版Geminiでは、データが学習に使われないことが規約で保証されています。このため、機密情報などを扱う業務でGeminiを安全に利用するには、Google Workspaceの契約が必要です。

【既存メールシステムとの共存という課題】 Google Workspaceの導入には独自ドメインが必要であり、Gemini Advancedが利用できるプランには、そのドメインを利用したメールサービス(Gmail)が含まれます(※)。そのため、すでに自社ドメインでメールシステムを運用している場合、そのシステムを維持したまま、いかにしてGoogle Workspaceの恩恵を受けるか、という課題が生じます。
※ メール機能を含まないGoogle Workspace Essentialsプランでは、Gemini Advancedは利用できません。(2025年6月現在)

【具体的な解決手順】 この課題は、以下の手順を踏むことで解決できます。

  • 手順1:ユーザーアカウント(ログインID)の準備 Google WorkspaceにログインするためのユーザーIDとして、自社のメールサーバーで受信できるメールアドレスを割り当てます。これは、Googleからのサービス通知やパスワードリセット等の重要な連絡を受け取るためです。既存のメールアドレスをそのまま利用するか、新規アドレスを作成して普段使うアドレスへ転送する設定を行います。

  • 手順2: DNS設定(MXレコードの維持) ドメインの所有権をGoogleに証明するため、DNSサーバーに指定されたTXTレコードを追加します。この際、メールの配送ルートを定義するMXレコードは一切変更しません。これにより、メールの送受信は引き続き既存のメールサーバーで行われます。

  • 手順3:Gmailサービスの無効化 Google Workspaceの管理コンソールで、Gmailのサービスステータスを「オフ」に設定します。これにより、ユーザーはGoogle Workspace上でメール機能を利用しなくなりますが、アカウント自体は有効なため、Gemini Advancedなどの他のサービスは問題なく利用し続けることができます。

(番外編)電子帳簿保存法対応の勘所

あくまで一例ですが、電子帳簿保存法対応の方向性の例を記してみます。

1 電子取引にかかる取引データは、タイムスタンプ機能がなくとも、既存の基幹システムもしくは会計システムに取り込んでいく。

∵ 現状、ファイルサーバーの共有フォルダへの保存を行っている企業も多いと思われるが、検索性要件を満たすための事務コストが相応に必要となる。このため、検索性要件を容易に満たすためには、専用の文書保管システムを導入するか、既存のシステムに取り込むかが、選択肢となる。このうち、既存のシステムとの連携の方が、生産性向上につながりやすいことが多い。
なお、既存のシステムにタイムスタンプ機能を付与できない場合の真実性の要件を満たす手段としては、規則の制定・運用が考えられる。

2 紙文書のスキャンは、経費精算クラウドなどを活用する場合を除き、極力行わない。紙の文書は、そのまま保存するか、取引における紙文書のやりとりをなくし電子取引への移行をすすめていく。

∵ 紙のスキャンは、真実性の要件を満たすために、タイムスタンプ機能の実装が必須となる。タイムスタンプ機能の実装のためには、専用の文書保管システムを必要とすることも多い。また、スキャンする事務自体が必要となり事務コストが増す。

電子帳簿保存法対応を契機として、企業の生産性の向上につながることを願っております。

エストニア企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要もしくは5%に軽減?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、エストニア企業に外注する場合には、租税条約によって5%に軽減されるか免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、エストニア政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
エストニアは、国家サービスのデジタル化において先進的な取組みが行われており、IT先進国として知られている。
では、エストニアに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費等の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、エストニアにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、エストニア国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 5%に軽減 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日エストニア租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料に課すことができる税率は5%が上限である(日エストニア租税条約第12条第2項)。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第5項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約

ポーランド企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ポーランド企業に外注する場合には、免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ポーランド政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
ポーランドは、世界的なIT企業などにより積極的に投資が行われており、IT人材が豊富とも言われる(参考記事)。
では、ポーランドに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ポーランドにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ポーランド国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日波租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日波租税条約第12条第2項(b))。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第4項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当しない。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とポーランド人民共和国との間の条約」に係る統合条文

ウクライナ企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ウクライナ企業に外注する場合には、租税条約によって免除となる可能性が高い。

ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、著作権の使用の対価と判断される場合、5%の源泉所得税を控除する必要があると考えられる。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ウクライナ政府の課す税金については検討の対象外としています。

●詳細
(前提)
ウクライナは、国家サービスのデジタル化の分野で、世界的にも先進的な取組みを行っている(参考記事)。
では、ウクライナに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ウクライナにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ウクライナ国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税。ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、5%。(いずれも、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日ソ租税条約第9条第4項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日ソ租税条約第9条第2項a)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約(2024年2月19日署名。2024年9月1日現在未発効。以下同じ。)をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日・ウクライナ租税条約第12条第1項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料の税率は上限の5%となる(日・ウクライナ租税条約第12条第2項)。

② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日ソ租税条約第11条第5項)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約をみるに、本件著作権の譲渡については、不動産・船舶・航空機・株式以外の資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日・ウクライナ租税条約第13条第5項)。

③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。

④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=85442)

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/08/pdf/08_03.pdf

『税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び日本国とウクライナの二国間の関係に適用される「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」に係る統合条文』
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/191018ukraine_j.pdf

「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とウクライナ政府との間の条約」(日・ウクライナ租税条約)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20240219uk_JP.pdf

租税教室レジュメ例(2021年・名古屋国税局管内・中学生用)

弊事務所では、地元の租税教育推進協議会に協力し、地元の学校で行われる租税教室の講師を担当させていただくことがあります。2021年は、金融所得に累進課税が適用されないことの是非が話題となったり、タックスヘイブンを将来的に事実上なくす歴史的な国際合意がなされたことから、人気ソフト「あつ森」やネット通販などを題材に、それらについても簡単に触れています。租税教育のため教室内で利用する場合には、講師の責任にて自由に加工して使っていただければと思います。なお、租税教育のための基本的な考え方の紹介であり、税務実務には直接参考にしないでください。

2021年度版租税教室資料例(名古屋国税局管内用 中学生向け)

特徴
・最近のトピックとして、「あつ森」を題材に、金融所得課税をめぐる二元的所得税の是非を考えたり、ネット通販を題材に国際課税の動向を紹介しています。
・担当講師が加工して使っていただけるように、パワーポイントにて提供しています。
・自己紹介を除き、講師が発言すべきことは、極力ノートに記載しています

前提
・名古屋国税局が作成した、次の教材の使用を前提としています(過年度の教材は国税局のサイトから削除されていることがあります。
中学生用「ハロー・タックス」(令和三年度版)
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/education/kyozai02/index.htm
・税理士が講師を務めることを前提に、自己紹介では税理士の職業紹介をしています。
・50分での授業展開になっています

租税教室 教材例(2019年・名古屋国税局管内用・中学生向け)

弊事務所では、地元の租税教育推進協議会に協力し、地元の学校で行われる租税教室の講師を担当させていただくことがあります。租税教育については、優れた事例集や資料集が国税局のWEBサイトで公開されているところですが、提供形態がPDF形式のものが多く直接の活用が困難だと思われますので、パワーポイントで弊事務所版のレジュメを公開いたします。租税教育のため教室内で利用する場合には、講師の責任にて自由に加工して使っていただければと思います。

2019年度版租税教室資料例(名古屋国税局管内用 中学生向け)

特徴
・税を通して社会や国の在り方について考えることを重視した授業展開を想定しています。
・税金の集め方についての、生徒によるディスカッションを含めています。
・個人別の所得額や消費額に応じた税額を、生徒に考えてもらいます。
・担当講師が加工して使っていただけるように、パワーポイントにて提供しています。
・自己紹介を除き、講師が発言すべきことは、極力ノートに記載しています

前提
・名古屋国税局が作成した、次の教材の使用を前提としています(過年度の教材は国税局のサイトから削除されていることがあります。
中学生用「ハロー・タックス」(令和元年度版)
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/education/kyozai02/index.htm
・税理士が講師を務めることを前提に、自己紹介では税理士の職業紹介をしています。
・50分での授業展開になっています。

関根稔先生の相続セミナーに参加してきました。

(概要)
不動産の価値が下がり続ける時代には、借金をして収益性の低い賃貸物件を建てるよりも、余裕資金でご子息の自宅を建てた方が、意味ある相続税対策になる。

(詳細)
先日、弁護士の関根稔先生の相続セミナー(東海税理士会主催「相続事案の注意点」2018年11月20日)に静岡まで行ってきました。

相続のアドバイスにおいて、為になるお話、盛沢山でした。

中でも印象的だったのは、昨今、不動産の価値は下がり、事業は縮小傾向、そして90歳までの人生を考えたとき、やるべきは不動産投資などの相続税対策ではなく、資産のお片付けと豊かな老後を過ごすための準備だというお話。

というのも、少しの相続税のために莫大な借入金を可愛い子息に残してしまう例が多くなっているとのこと。すなわち、相続税の節税のために多額の借入金で賃貸不動産に投資して、借入金を返済できるほどの賃貸収益を得られることができず、値下がりを続けるその不動産をやむなく売却し、借入金だけが残ってしまうという最悪のケースが、たくさん出てきていると。

その代わりに提唱されていたのが、資産と借金を整理し、手許に残った余裕資金で、子息の自宅を建ててあげること。建物は建設した時点で、半分くらいの評価額になるし、90歳まで生きるとしたら、その時の建物の評価額は、減価償却して相当低くなるから、これだけで有効な相続税対策になるというわけです。さらに言えば、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度を使って子息の名義にしなくても、自分名義で建てれば、それだけで相続税対策になる。不動産の価値が上がり続ける時代であれば、非課税制度を使って子息の名義にすることが有効だけれども、不動産の価値が下がり続ける時代には、自分名義で建ててあげればそれでよい。不動産の価値が下がり続ける時代には、有効で意味ある相続税対策方法ですね。

私の最近の相談でも、生前贈与等の対策を施せば、借入による不動産投資と同等以上の相続税対策が実現できることがわかった事例もありました。何を重視するかは、最後は、資産家の方々のご判断次第ですが、お気持ちに沿った対策をご選択できるように、相続税対策のシミュレーションのご依頼に際しては、必要に応じて代替案のご提案も行って参りたいと思います。


追記 セミナー後、「獣になれない私たち」(日本テレビ系列のドラマ)の5tap的なおしゃれなビアバーで飲んで、帰ってきました。

弥生PAPカンファレンス 2018 夏に参加してきました。

<概要>
・中小企業と会計事務所は、各社から次々と提供される廉価あるいは無料のITサービスを利用して、業務を効率化していくことができる。
・仕訳データを活用した法人融資審査業務を提供するアルトア(株)と地域金融機関との提携は、地域金融機関における法人融資審査を進化させる可能性を秘めている。


(弊事務所事例発表)

<詳細>
2018年7月4日、弥生PAPカンファレンス 2018 夏の名古屋会場に参加してきました。
事例発表では、弊事務所からも、弥生会計を活用した経理業務の効率化事例を発表させて頂きましたが、二組目の登壇者である税理士法人葵パートナーズ様の発表、また、弥生(株)の子会社であるアルトア(株)の発表は、とても刺激的な内容でした。

税理士法人葵パートナーズ様の発表では、各社から次々と提供される廉価あるいは無料のITサービス(chatwork、slack、facebookメッセンジャー、googleドライブ、googleスプレッドシート、kintone、クラウドサイン)を駆使して、会計業務の効率化、雇用体系の多様化を図り、そこで生み出される時間を活かし、地域の枠を超えて高付加価値を提供する会計事務所の在り方を、勉強させていただきました。

また、アルトア(株)の発表では、仕訳データを活用してAI即時自動審査を行っている法人融資サービスにつき、平成29年12月に自社で開始した現状が報告されました。同社では、地域金融機関(千葉銀行、福岡銀行、山口フィナンシャルグループ、横浜銀行)と業務提携しており、将来的に、地域金融機関での同機能の活用を目指されています。決算情報を基にした単なるスコアリングではなく、仕訳一本一本を分析して、人による融資審査に近づけようとするシステムの導入は、融資担当者をできる限り定量的な分析から解放し定性的評価に集中できるという意味で、法人融資の効率化と深化を推進していくものと思われます。

弊事務所としても、適切な納税義務の実現や金融の円滑化に役立つ会計サービスを、効率的にお客様にご提供できるよう、業務プロセスの不断の見直しを図っていきたいと思います。

(公式サイトへのリンク:https://www.yayoi-kk.co.jp/pap/report/conference-2018/summer.html)