相続税・贈与税」カテゴリーアーカイブ

一般的な相続対策のまとめ

相続税の課税が見込まれる方への一般的な相続対策は以下のとおりです。
なお、事業を経営している方などは、これ以外の対策につき別途検討が必要になります。

1.相続財産の評価を下げていただく。

(1)生命保険金の非課税枠(相続人数×5百万円)を活用する。

注意点:評価を下げる目的では、ご本人の配偶者を受取人にしてはいけません。なぜならば、配偶者にかかる相続税は、相続財産1億円6千万円まで非課税となる配偶者控除があるため無税となることが多く、また、この無税となる配偶者を受取人にした場合に非課税枠が「無駄」に使われてしまうからです。配偶者以外の相続人のみで非課税枠を使い切るのが、最も効果が高い活用となります。

(2)子や孫が必要な土地や家屋を、ご本人名義(被相続人となる方)で購入していただく。

注意点:不動産の購入は、それだけで相続財産の評価を下げるという効果がありますが、実際に必要なものに限定します。なぜなら、投資目的の不動産の購入は、相続財産の税務上の評価を下げるだけでなく、資産価値(時価)も下げるからです。なお、ご本人と相続人が同居している場合、土地部分につき小規模宅地の特例の対象にできる可能性があります。
参考記事:https://office-katada.jp/?p=730

2.相続財産を減らしていただく。

(1)扶養義務者として、子や孫へ、贈与税非課税となりうる、生活費又は教育費の贈与を行っていただく。

注意点:社会通念上適当と認められる範囲で、生活費又は教育費を直接、支払っていただきます。生活費又は教育費に充てられず、現金又は預金となった部分は、贈与税の課税対象となります。
詳細は、https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/131206/pdf/01.pdf

(2)子や孫が土地や家屋を必要な場合に、非課税枠のある住宅取得等資金贈与を行っていただく。

注意点:受贈者(子や孫)が、不動産の購入代金(前金を含む)を支払う前に、贈与を行います。
また、受贈者は、直系卑属のみが対象であり、その配偶者は対象となりません。
詳細は、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

(3)相続人以外の者(一般的には孫や相続人の配偶者など)へ、暦年贈与を行っていただく。

注意点:贈与証書を作成したうえで、受贈者自身が管理する預金口座へ入金を行っていただきます。なお、相続人以外であっても遺贈対象となっている方へは、相続財産の持ち戻しの対象となるため、効果を発揮しない場合があります。

(4)相続人へ、複数年にわたり、暦年贈与や相続時課税制度を用いて生前贈与を行っていただきます。

注意点:令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用が一般的に有利です。
詳細は、https://office-katada.jp/?p=1664

(5)ご本人の充実した人生のためにお金を使っていただく。

弊所では、相続税の事前シミュレーションや相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

新たな相続税低減ツールとなった、相続時精算課税

(概要)
生前贈与による相続対策として、複数年にわたる暦年贈与が従来考えられてきましたが、令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用も考えられるようになりました。

(詳細)
これまで相続時精算課税は、相続時に全額を持ち戻す必要があるため、相続税の低減効果が基本的にありませんでした。加えて、相続時精算課税を選択すると、暦年贈与の110万円の基礎控除が適用できなくなっていました。この結果、相続時精算課税は、相続税が掛からないと見込まれる方からの生前贈与など、限定的な場面での相続対策にしか活用されてきませんでした。

反対に、暦年贈与は、複数年にわたり実施するなどして、相続税率より低い贈与税率を実現し、相続税低減ツールとして活用されてきました。

こうした中、令和5年度税制改正により、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が導入され、また、この基礎控除全額が持ち戻しの対象外となることから、令和6年1月1日以降、相続税低減ツールとして相続時精算課税が活用できることとなりました。

また、同税制改正により、暦年贈与について、相続財産に持ち戻すことが必要な期間が、相続前3年間から相続前7年間に延長されました。これにより、複数年の暦年贈与による相続税低減効果が薄くなりました。

この結果、これまで相続税低減効果のなかった相続時精算課税ではありますが、複数年の暦年贈与より、相続税等をより低減できるケースが出てきました。
グラフ
上のグラフは、資産額1億円、相続人3人(なお、配偶者はいないものとします)、相続発生まで10年という条件下でシミュレーションしたものですが、この場合、10年間にわたる暦年贈与(オレンジ色)よりも、相続時精算課税制度下で10年間の生前贈与(緑色)を行った方が、トータルの税金が低くなることがわかります。

今後、生前贈与による相続対策としては、暦年贈与のほか、相続時精算課税制度の活用できるようになったと言えます。

弊所では、生前贈与による相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

相続の手続きが終わっても、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は残しておきましょう。

(概要)
相続の手続きが終わっても、将来、不動産を売却する際の譲渡所得の計算で不利になることがないように、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は残しておきましょう。

(詳細)
・被相続人が生前購入された不動産を、相続人が将来売却するとき、その譲渡所得の計算で売却代金から控除する「取得費」は、相続時の相続税評価額を基礎とするのではなく、被相続人が不動産を購入された時の実際の価額を基礎として計算します。
・不動産を購入された時の実際の価額がわからない場合、「取得費」は、売却代金×5%で計算せざるをえないことも多く(※)、この場合、通常、実際の価額を基礎として計算された金額よりも少なくなります。その場合、譲渡所得にかかる税金が本来より多くなります。
・そのため、相続手続きが終わっても、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は破棄せず、保存しておきましょう。
・土地や建物の売買契約書のほか、土地購入時の建物解体費用や造成費用、外構工事費用、建物新築時の工事請負代金などがわかる書類、事業用に用いていた場合には事業最終年度の税務申告書なども、同様の理由から残しておきましょう。

※ … 建築年月日と床面積から、標準的な建築価額表を用いて建物の取得価額を計算する方法など、取得費を推定して算定する方法がありますが、本稿では割愛します。

一次相続の分割協議をする前に二次相続が発生した場合の一次相続の分割の可否

一次相続の分割協議をしないで(遺産分割協議書を作成しないで)、二次相続が発生した場合であっても、通常は、二次相続の複数の相続人間で、一次相続の遺産分割協議を行うことで、自由な遺産分割が可能である(ケース1)。

(ケース1)
父(一次相続) 母(二次相続)
長男 長女
⇒ 長男、長女で、一次相続、二次相続の相続税の負担等を考慮したうえで、一次相続及び二次相続の遺産分割協議を行うことが可能

他方で、二次相続の相続人が一人である場合(ケース2)には、遺産分割協議は行えず、法定相続分で遺産分割されたものとされる(参考となる判例に、東京地裁平成26年3月13日判決東京高裁平成26年9月30日判決)。

(ケース2)
父(一次相続) 母(二次相続)
長男(一人っ子)

この結果、ケース2の場合には、相続税の負担を考慮して遺産分割及び相続税申告を行うことはできず、法定相続分で遺産分割されたものとして、相続税の申告を行わなければならない。また、この場合、一次相続においては、遺産分割は行われてないという前提から、配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用は不可となる(相続税法19条の2第2項及び租税特別措置法69条の4第4項)。もっとも、二次相続においては、一次相続の相続税にかかる債務控除及び相次相続控除の適用が可能である。

なお、一次相続の相続人間(ケース2における母と長男)において、一次相続の遺産分割協議が書面ではないが口頭で行われていた場合には、二次相続の相続人(ケース2における長男)が遺産分割協議証明書を作成して事実を証明し、それに従った、登記及び相続税申告を行うことになる。この場合には、遺産分割協議が行われていることから、配偶者控除や小規模宅地等の特例は適用しうる。

非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例を受けるための担保提供フロー(株券不発行の場合)

非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例を受けるための担保提供の手続きは、時系列的に書籍や公表資料などでは明らかにされていないことが多い。簡単にまとめると次のとおり。迷う場合には所轄税務署の管理運営部門にご相談下さい。

前提
株券不発行会社
対象非上場株式の全部を提供

基本的なフロー
贈与税申告

・担保提供書(様式301) … 利子税や税額合計は本来所要の計算をすべきであるが、計算が複雑なため、国税局納税管理官や税務署の管理運営部門では空白にすることを推奨している模様。記載する場合でも、捨印を押印しておくことを推奨している模様(他様式も同様)。
・担保目録(様式302) … 「単価」や「価額」は、贈与時ではなく担保提供時点のものを記載すべきであるが、「みなす充足」の適用を受ける場合には空白にしておくことも容認されている模様。
・質権設定承諾書(様式306)
・受贈者個人の印鑑証明書
注1

贈与税の申告期限

税務署から担保設定についての通知(申告期限から正式な審査がスタートして、概ね1~2か月程度の模様)
↓(指定された期限内に)注2
・株主名簿記載事項証明書 … 質権者の名称、住所、質権の対象となる株式について記載する(会社法149条)
・法人代表者の印鑑証明書

注1 株券発行会社の場合には、質権の効力発生に株券の交付が必要となるため「速やかに担保関係書類を行う旨の確約書」(様式303)が求められるが、株券不発行会社の場合には、様式306(及び印鑑証明書)と税務署による意思表示をもって質権の効力発生するため、前述のような確約書の提出が不要になっていると思われる。ただし、質権の対抗要件を満たすためには、株主名簿への記載又は記録が必要であるため、その後、税務署が通知する期限内に株主名簿記載事項証明書が提出する。通知された期限内にこれができない場合には、担保関係書類の提出を行う旨の確約書(株券不発行会社用 様式307)が必要とされる(注2参照)。

注2 税務署から指定された期限に間に合わない場合には、次の書類で、提出できる期限を確約する。
担保関係書類の提出を行う旨の確約書(株券不発行会社用 様式307)

手続きの概要
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/qa/index_6.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/qa/qa_6/q09.htm

様式
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/yoshiki/02.htm

相続人が海外に居住している場合の相続税の電子申告

相続人が国内に住所を有していない場合には、税理士を納税管理人として選任し、相続税申告を行うのが一般的である。税理士が納税管理人である場合には、当該相続税申告を電子申告にて行うことができるが、税務署は次の方法を指導している模様。
・利用者識別番号には、納税管理人である税理士のものを用いる。
・申告書の氏名のフリガナ欄に「納税管理人××××(税理士名)」を記載する。
・申告書の氏名欄・住所欄には、相続人本人及びその海外の住所を記載する。

相続税対策を考えるための財産評価早見表(固定資産編)

事業承継や相続における相続税対策を検討する最初のステップは、対象となる財産の相続税評価額を知ることです。その中で特に重要となるのは、不動産をはじめとする固定資産です。もしこれらとその他の財産の相続税評価額の合計が、課税時点で基礎控除額以下となるのであれば、申告及び納税は不要となります。
そこで、専門家に相談する前に、下記の早見表をもとに、ざっくりご自身で算定してみましょう。なお、理解を容易とするために簡便的に記載しておりますので、実際の相続や対策にあたっては、顧問の税理士にご相談ください。

主な固定資産の相続税評価額早見表

土地
(注1)
建物・附属設備(注1、2) 構築物 車両・機械装置等
右記以外 賃借物件の内装設備
固定資産税評価額あり 固定資産税評価額なし
法人所有(株式評価における純資産価額計算時) 3年以内取得 簿価 簿価 簿価 簿価 簿価 簿価
上記以外 路線価等(注3) 固定資産税評価額 簿価
(注4)
0円
(注5)
簿価×70%
(注4)
簿価
(注4)
個人所有 路線価等(注3) 固定資産税評価額 簿価
(注4)
0円
(注5)
簿価×70%
(注4)
簿価
(注4)

注1 取引相場のある不動産所有権付リゾート会員権については、法人における3年以内取得は簿価で、それ以外においては取引価格の70%相当額にて評価します。国税庁 質疑応答事例 参照
注2 建物が借地上に存する場合には、別途借地権の評価が必要です。詳細は割愛いたします。
注3 詳細は割愛いたします。現況により変動しますが、課税時点の取引価格の7割程度となることが多いです。
注4 本来は、再取得価額が基礎となりますが、実務上、簡便的に簿価を採用できる場合には簿価を基礎とします。
注5 原状回復義務があり一切の補償が行われない場合など、有益費償還請求権や造作買取請求権を放棄しているとみられる場合には、評価から除外できるものと考えられます。国税不服審判所 裁決事例集 No.39 – 380頁  (リンク先上から4つ目の事例です)

関根稔先生の相続セミナーに参加してきました。

(概要)
不動産の価値が下がり続ける時代には、借金をして収益性の低い賃貸物件を建てるよりも、余裕資金でご子息の自宅を建てた方が、意味ある相続税対策になる。

(詳細)
先日、弁護士の関根稔先生の相続セミナー(東海税理士会主催「相続事案の注意点」2018年11月20日)に静岡まで行ってきました。

相続のアドバイスにおいて、為になるお話、盛沢山でした。

中でも印象的だったのは、昨今、不動産の価値は下がり、事業は縮小傾向、そして90歳までの人生を考えたとき、やるべきは不動産投資などの相続税対策ではなく、資産のお片付けと豊かな老後を過ごすための準備だというお話。

というのも、少しの相続税のために莫大な借入金を可愛い子息に残してしまう例が多くなっているとのこと。すなわち、相続税の節税のために多額の借入金で賃貸不動産に投資して、借入金を返済できるほどの賃貸収益を得られることができず、値下がりを続けるその不動産をやむなく売却し、借入金だけが残ってしまうという最悪のケースが、たくさん出てきていると。

その代わりに提唱されていたのが、資産と借金を整理し、手許に残った余裕資金で、子息の自宅を建ててあげること。建物は建設した時点で、半分くらいの評価額になるし、90歳まで生きるとしたら、その時の建物の評価額は、減価償却して相当低くなるから、これだけで有効な相続税対策になるというわけです。さらに言えば、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度を使って子息の名義にしなくても、自分名義で建てれば、それだけで相続税対策になる。不動産の価値が上がり続ける時代であれば、非課税制度を使って子息の名義にすることが有効だけれども、不動産の価値が下がり続ける時代には、自分名義で建ててあげればそれでよい。不動産の価値が下がり続ける時代には、有効で意味ある相続税対策方法ですね。

私の最近の相談でも、生前贈与等の対策を施せば、借入による不動産投資と同等以上の相続税対策が実現できることがわかった事例もありました。何を重視するかは、最後は、資産家の方々のご判断次第ですが、お気持ちに沿った対策をご選択できるように、相続税対策のシミュレーションのご依頼に際しては、必要に応じて代替案のご提案も行って参りたいと思います。


追記 セミナー後、「獣になれない私たち」(日本テレビ系列のドラマ)の5tap的なおしゃれなビアバーで飲んで、帰ってきました。

山林及び立木の相続税評価の実際

(概要)
・相続税の財産評価の解説書は多く出ているが、山林及び立木については、評価基礎資料の地域性も高いため、具体的な評価方法を記載している解説は少ない。
・山林及び立木の評価のポイントは、森林簿、保安林台帳、分収造林契約書といった評価基礎資料を適切に入手することにある。

(詳細)
弊事務所は、浜松市の北部に位置することから、山林及び立木を相続財産に含む相続税申告のご依頼をいただくことがあります。
相続税の財産評価の解説書は多く出ているところですが、山林及び立木については、基礎資料の地域性も高いためか、具体的な評価方法を記載している解説は少ないと考えられます。そこで、弊事務所での評価作業例を紹介していきたいと思います。

1.必要書類の入手

① 森林簿の入手
静岡県内の山林及び立木の評価においては、まず、県農林事務所作成の森林簿を入手する。
入手先:静岡県〇〇農林事務所

※ 市町村でも森林簿を保管している例はあるが、静岡県においては、森林簿の作成は県が行っているので、県の農林事務所で入手した方が二度手間にならないと考えられる。
※ 静岡県森林情報共有システムでも、森林簿の閲覧ができるが、相続税の評価に必要な情報がすべて記載されているわけではない。逆に、農林事務所窓口で交付される森林簿にも、評価に必要な情報が記載されていないこともある。たとえば、後述の立木の評価における「地味級」は、静岡県森林情報共有システムの森林簿における「林地の生産力」(「地位」とも言われる)を利用するか、農林事務所に口頭で確認する必要があることがある。

② 保安林台帳の入手
①にて森林簿を入手した結果、当該立木の中に、保安林が存在する場合には、伐採関係区分の把握のため、県農林事務所作成の保安林台帳を入手する。
入手先:静岡県〇〇農林事務所

③ 分収造林契約書の入手
①にて森林簿を入手した結果、当該立木の中に、第三者の立木が存在する場合には、分収造林(例えば、国の水源林造成事業においては、水源林の維持のため、国の費用の負担のうえで造林を行い、林地所有者、造林作業者(森林組合)、費用負担者(国)で立木収益の分配を行う。)の可能性が高いことから、持分割合把握のため、分収造林契約書を入手する。当該契約書は、造林地所有者である被相続人が保管しているはずだが、もし見当たらない場合には、立木所有者に協力を求める。

山林が水源地に所在する場合には、当該分収造林が、国の水源林造成事業によるものであることがある。この場合、現在の所有者は、国立研究開発法人森林研究・整備機構(注)となるので、次の先に協力を求める。

国立研究開発法人森林研究・整備機構
森林整備センター 〇〇水源林整備事務所

注:国の水源林造成事業は、森林開発公団、緑資源公団、独立行政法人緑資源機構、独立行政法人 森林総合研究所、国立研究開発法人 森林総合研究所、そして、現在の国立研究開発法人 森林研究・整備機構への引き継がれているため、森林簿や登記簿には、旧名称が記載されていることに留意する。

2.森林の立木の評価
① 標準価額の把握
森林簿をもとに、樹種(杉orヒノキorその他)、林齢(樹齢)を確認し、1ha当たりの標準価額を国税庁が公表している財産評価基準書における県別及び基準年度別の「森林の立木の標準価額表」より拾う。標準価額表(静岡県)には、杉、ヒノキしか記載がないが、その他の樹種(例えば、黒松、その他の広葉樹)は、地元の木材卸事業者にヒアリングを行ったうえで、当地では市場性がないものと判断し、ゼロと評価した。また、標準価額表には、標準伐期の2倍を超える樹齢について「ー」と記載されているが、これは「事情精通者の意見を参酌して定める価額」(財産評価基本通達115(3)ロ)が必要であるためで、この場合には、地元の木材卸事業者にヒアリングを行って標準価額を決定する。

②地味級
スギ、ヒノキ、松については、一本あたりの立木体積データが必要となるが、当地の森林簿から計算することができないので、弊事務所では、森林簿における地位(「林地の生産力」ともいう)をもとに、暫定的に判定している。
(地位) (地味級)
I、Ⅱ  → 上
Ⅲ    → 中
Ⅳ、Ⅴ  → 下

③ 立木度
森林簿の林種より判定。弊事務所では、人工林は密として評価。

④ 地利級
森林簿の「林道からの距離」を地利級判定表の小出し距離に当てはめ、小運搬距離は分からなかったので一番評価の高いところとし、等級を判定。

⑤ ②~④の結果を総合等級表に当てはめ、総合指数を判定。
地味級、立木度、地利級の指数を乗じたものが総合指数となるが、各指数を調べて乗じるよりも、総合指数表での判定が効率的である。
なお、財産評価のためのソフトウエア(弊事務所では、(株)NTTデータ製「財産評価の達人」を利用)では、地味級、立木度、地利級を入力すると自動判定してくれる。

⑥ 保安林については、保安林台帳の保安林の種類と指定施業要件より、控除割合の判定。
保安林台帳には、保安林の種類として「水源かん養保安林」や「土砂流出防備保安林」等の記載があり、指定施業要件として「皆伐」、「択伐」、「禁伐」、「間伐」の記載がある。これらの記載を、財産評価基準書における県別及び基準年度別の「伐採制限等を受けている山林の評価」別紙「森林法その他の法令の範囲等」に当てはめ、控除割合(一部皆伐(0.3)、択伐(0.5)、単木選抜(0.7)、禁伐(0.8))を判定する。

例えば、「水源かん養保安林」で「皆伐」及び「間伐」の指定がなされている場合には、当該別紙「森林法その他の法令の範囲等」における区分「水源かん養保安林」の伐採の方法等「伐採種を定めない」ものに分類できることから、一部皆伐(0.3)の控除割合と判定できる。

⑦ 分収造林について持分割合の把握
第三者が所有者の立木について分収造林契約がある場合には、林地所有者の分収割合を、共有持分割合として判定する。
例えば、分収造林契約書より、所有者の分収割合が40%であることが判明する場合には、共有持分割合を40/100とする。

⑧ 面積の把握
評価額の重要な要素である⑤総合指数について森林簿の情報をもとに算定すること、また、森林簿は実測値に近い数字として信頼できることから、弊事務所では、森林簿における面積を採用している。

⑨ 評価額の算出
以上の情報をもとに、以下の算式で相続税評価額とする。
①×⑤×(1-⑥)×⑦×⑧×85%(立木の特例、相続税法26条の2)

3.山林(林地)の評価
① 面積の把握
登記簿の面積ではなく、森林簿の面積に引き直して評価する。
登記簿の面積と森林簿の面積は、大きく違うことが多い。さらに、保安林の面積も、登記簿とも森林簿とも違っているものもあった。
各面積は、静岡県の場合、下記のように決定されている模様である。
・登記簿・・・近年の地籍調査による実測値が反映されているものもあるが、森林には、長年実測が行われず、いわゆる縄延びの問題を抱えたものが多く含まれている。
・森林簿・・・航空写真から推定して計算されている。
・保安林台帳・・・登記簿の面積を利用、あるいは、実測して作成されている。
実測されていると判断できる保安林については、保安林台帳の面積が最も正しいと推測されるが、保安林台帳の面積を採用すると森林簿をもとに評価することが最も適当と考えられる立木の評価と整合が取れなくなる。そこで、弊事務所では、整合性を考慮して、森林簿の面積を採用することとしている。

具体的には、固定資産税評価額を登記簿面積で除して、森林簿の面積を乗じることで、森林簿の面積による固定資産税評価額を算出している。

② 倍率表の倍率の把握

③ 保安林の控除割合の把握
保安林については、立木の評価と同じ控除割合を利用する。
倍率に乗じて計算する場合には、(1-控除割合)を利用する。

④ 権利割合の把握
分収造林契約に基づき地上権が設定されている森林については、分収割合及び契約残存期間を元に、権利割合を計算する。
例えば、契約残存期間37年の場合で地上権割合が0.6と評価され、また、分収割合が0.4の場合
[底地部分の権利割合(1-0.6(地上権割合))]+[地上権部分のうち自らの権利割合(0.6(地上権割合)×0.4(分収割合))]=0.64

⑤ 評価額の算出
①の固定資産税評価額に②~④の倍率を乗じて、評価額を算出。

以 上

本サイトの情報への問い合わせは、弊所のお客様に対してのみ応じております。お客様以外からの問い合わせには応じておりません。

二世帯住宅であっても住宅取得等資金の非課税の適用を受けることができる模様

<概要>
二世帯住宅の子世帯が住む部分の床面積が二世帯住宅全体の床面積の1/2未満であっても、住宅取得等資金の非課税の適用を受ける実務が認められている模様

<詳細>
祖父Aが、父Bと子Cそれぞれに1000万円ずつの住宅取得等資金の贈与を行い、父Bと子Cが共有の二世帯住宅を建てた場合、父Bと子Cは、住宅取得等資金の非課税の適用を受けることができるのか。この場合、租税特別措置法40条の4の2第3項の「特定受贈者がその居住の用に供する家屋(その家屋の床面積の1/2以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る)」の要件は満たすのかという問題が生じる。なぜならば、父世帯の床面積が120㎡、子世帯の床面積が100㎡の場合、子世帯の床面積100㎡は、二世帯住宅全体の床面積220㎡の1/2未満となり、上記の規定を満たさないと考える向きもあるためである。
この点、ある税務署では、二世帯住宅の場合、父世帯、子世帯合わせて、居住用部分と考えてよく、問題ないとの回答を示している。前述の規定は、事業用部分を適用対象外とする規定であるとの説明である。
この場合、父B、子Cそれぞれにおいて、住宅取得等資金の非課税の適用を受けることが可能との判断となる。
所轄税務署と相談のうえ、対応いただきたい。