一般的な相続対策のまとめ

相続税の課税が見込まれる方への一般的な相続対策は以下のとおりです。
なお、事業を経営している方などは、これ以外の対策につき別途検討が必要になります。

1.相続財産の評価を下げていただく。

(1)生命保険金の非課税枠(相続人数×5百万円)を活用する。

注意点:評価を下げる目的では、ご本人の配偶者を受取人にしてはいけません。なぜならば、配偶者にかかる相続税は、相続財産1億円6千万円まで非課税となる配偶者控除があるため無税となることが多く、また、この無税となる配偶者を受取人にした場合に非課税枠が「無駄」に使われてしまうからです。配偶者以外の相続人のみで非課税枠を使い切るのが、最も効果が高い活用となります。

(2)子や孫が必要な土地や家屋を、ご本人名義(被相続人となる方)で購入していただく。

注意点:不動産の購入は、それだけで相続財産の評価を下げるという効果がありますが、実際に必要なものに限定します。なぜなら、投資目的の不動産の購入は、相続財産の税務上の評価を下げるだけでなく、資産価値(時価)も下げるからです。なお、ご本人と相続人が同居している場合、土地部分につき小規模宅地の特例の対象にできる可能性があります。
参考記事:https://office-katada.jp/?p=730

2.相続財産を減らしていただく。

(1)扶養義務者として、子や孫へ、贈与税非課税となりうる、生活費又は教育費の贈与を行っていただく。

注意点:社会通念上適当と認められる範囲で、生活費又は教育費を直接、支払っていただきます。生活費又は教育費に充てられず、現金又は預金となった部分は、贈与税の課税対象となります。
詳細は、https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/131206/pdf/01.pdf

(2)子や孫が土地や家屋を必要な場合に、非課税枠のある住宅取得等資金贈与を行っていただく。

注意点:受贈者(子や孫)が、不動産の購入代金(前金を含む)を支払う前に、贈与を行います。
また、受贈者は、直系卑属のみが対象であり、その配偶者は対象となりません。
詳細は、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

(3)相続人以外の者(一般的には孫や相続人の配偶者など)へ、暦年贈与を行っていただく。

注意点:贈与証書を作成したうえで、受贈者自身が管理する預金口座へ入金を行っていただきます。なお、相続人以外であっても遺贈対象となっている方へは、相続財産の持ち戻しの対象となるため、効果を発揮しない場合があります。

(4)相続人へ、複数年にわたり、暦年贈与や相続時課税制度を用いて生前贈与を行っていただきます。

注意点:令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用が一般的に有利です。
詳細は、https://office-katada.jp/?p=1664

(5)ご本人の充実した人生のためにお金を使っていただく。

弊所では、相続税の事前シミュレーションや相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

新たな相続税低減ツールとなった、相続時精算課税

(概要)
生前贈与による相続対策として、複数年にわたる暦年贈与が従来考えられてきましたが、令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用も考えられるようになりました。

(詳細)
これまで相続時精算課税は、相続時に全額を持ち戻す必要があるため、相続税の低減効果が基本的にありませんでした。加えて、相続時精算課税を選択すると、暦年贈与の110万円の基礎控除が適用できなくなっていました。この結果、相続時精算課税は、相続税が掛からないと見込まれる方からの生前贈与など、限定的な場面での相続対策にしか活用されてきませんでした。

反対に、暦年贈与は、複数年にわたり実施するなどして、相続税率より低い贈与税率を実現し、相続税低減ツールとして活用されてきました。

こうした中、令和5年度税制改正により、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が導入され、また、この基礎控除全額が持ち戻しの対象外となることから、令和6年1月1日以降、相続税低減ツールとして相続時精算課税が活用できることとなりました。

また、同税制改正により、暦年贈与について、相続財産に持ち戻すことが必要な期間が、相続前3年間から相続前7年間に延長されました。これにより、複数年の暦年贈与による相続税低減効果が薄くなりました。

この結果、これまで相続税低減効果のなかった相続時精算課税ではありますが、複数年の暦年贈与より、相続税等をより低減できるケースが出てきました。
グラフ
上のグラフは、資産額1億円、相続人3人(なお、配偶者はいないものとします)、相続発生まで10年という条件下でシミュレーションしたものですが、この場合、10年間にわたる暦年贈与(オレンジ色)よりも、相続時精算課税制度下で10年間の生前贈与(緑色)を行った方が、トータルの税金が低くなることがわかります。

今後、生前贈与による相続対策としては、暦年贈与のほか、相続時精算課税制度の活用できるようになったと言えます。

弊所では、生前贈与による相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

相続の手続きが終わっても、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は残しておきましょう。

(概要)
相続の手続きが終わっても、将来、不動産を売却する際の譲渡所得の計算で不利になることがないように、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は残しておきましょう。

(詳細)
・被相続人が生前購入された不動産を、相続人が将来売却するとき、その譲渡所得の計算で売却代金から控除する「取得費」は、相続時の相続税評価額を基礎とするのではなく、被相続人が不動産を購入された時の実際の価額を基礎として計算します。
・不動産を購入された時の実際の価額がわからない場合、「取得費」は、売却代金×5%で計算せざるをえないことも多く(※)、この場合、通常、実際の価額を基礎として計算された金額よりも少なくなります。その場合、譲渡所得にかかる税金が本来より多くなります。
・そのため、相続手続きが終わっても、被相続人が不動産を購入した時の売買契約書等は破棄せず、保存しておきましょう。
・土地や建物の売買契約書のほか、土地購入時の建物解体費用や造成費用、外構工事費用、建物新築時の工事請負代金などがわかる書類、事業用に用いていた場合には事業最終年度の税務申告書なども、同様の理由から残しておきましょう。

※ … 建築年月日と床面積から、標準的な建築価額表を用いて建物の取得価額を計算する方法など、取得費を推定して算定する方法がありますが、本稿では割愛します。

(番外編)電子帳簿保存法対応の勘所

あくまで一例ですが、電子帳簿保存法対応の方向性の例を記してみます。

1 電子取引にかかる取引データは、タイムスタンプ機能がなくとも、既存の基幹システムもしくは会計システムに取り込んでいく。

∵ 現状、ファイルサーバーの共有フォルダへの保存を行っている企業も多いと思われるが、検索性要件を満たすための事務コストが相応に必要となる。このため、検索性要件を容易に満たすためには、専用の文書保管システムを導入するか、既存のシステムに取り込むかが、選択肢となる。このうち、既存のシステムとの連携の方が、生産性向上につながりやすいことが多い。
なお、既存のシステムにタイムスタンプ機能を付与できない場合の真実性の要件を満たす手段としては、規則の制定・運用が考えられる。

2 紙文書のスキャンは、経費精算クラウドなどを活用する場合を除き、極力行わない。紙の文書は、そのまま保存するか、取引における紙文書のやりとりをなくし電子取引への移行をすすめていく。

∵ 紙のスキャンは、真実性の要件を満たすために、タイムスタンプ機能の実装が必須となる。タイムスタンプ機能の実装のためには、専用の文書保管システムを必要とすることも多い。また、スキャンする事務自体が必要となり事務コストが増す。

電子帳簿保存法対応を契機として、企業の生産性の向上につながることを願っております。

ソフトウエア開発における会計処理と税務の図解

ソフトウエア開発にかかる税務は、令和3年税制改正により税務上の取扱いが明確になった面がある。
ただし、難解な側面があることから、ソフトウエアの目的別及び開発段階別に会計処理及び税務を図示する。
なお、一般的な例を示したものであり、実務への適用にあたっては、顧問の税理士と協議の上、処理願いたい。

参考
国税庁 令和3年6月25日付課法2-21ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/210625/

経済産業省 「研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について」35頁
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/R4gaiyov2.pdf

修正申告における事業税の認容額

修正申告の事業年度が複数年にわたるとき、事業年度の修正申告にかかる事業税を翌年の法人税修正申告で損金算入することができる。この損金算入額は、納税者が自発的に修正申告を行った場合、実際の事業税追徴税額であるが、税務調査などの結果、更正通知を受けて修正申告を提出する場合、税務署側が標準税率で計算した金額となる。では、その標準税率での計算方法はどのようなものであろうか。それをエクセルの数式で表すと、次のように計算される。事業税申告上の超過税率適用法人にも標準税率を用いることはもちろん、用いる所得は、事業税申告で実際に用いる所得ではなく、別表四の所得金額が用いられること、付加価値割の影響額算出に際しても実際の付加価値割を考慮せず前述の所得金額のみを利用して計算することに留意する。

外形標準課税対象法人の場合(※)
rounddown(rounddown(R’,-3)*(a+b),-2)+rounddown(rounddown(R’,-3)*a*c,-2)
-rounddown(rounddown(R,-3)*(a+b),-2)-rounddown(rounddown(R,-3)*a*c,-2)

外形標準課税対象法人以外の所得課税法人の場合
rounddown(rounddown(R’,-3)*a,-2)+rounddown(rounddown(R’,-3)*a*c,-2)
-(rounddown(rounddown(R,-3)*a,-2)-rounddown(rounddown(R,-3)*a*c,-2)

ただし、次のとおりとする。
R … 直前事業年度における当初申告における所得金額(別表四 最終行)
R’… 直前事業年度における修正申告における所得金額(別表四 最終行)
a … 事業税所得割の標準税率
b … 事業税付加価値割の標準税率
c … 特別法人事業税の標準税率

※ 端数切捨てのタイミングは、名古屋国税局管内で用いられていると思われる方法を記載した。この場合、県宛の事業税申告書における端数処理のタイミングと異なる。

関連の通達 法人税法基本通達9-5-2

一次相続の分割協議をする前に二次相続が発生した場合の一次相続の分割の可否

一次相続の分割協議をしないで(遺産分割協議書を作成しないで)、二次相続が発生した場合であっても、通常は、二次相続の複数の相続人間で、一次相続の遺産分割協議を行うことで、自由な遺産分割が可能である(ケース1)。

(ケース1)
父(一次相続) 母(二次相続)
長男 長女
⇒ 長男、長女で、一次相続、二次相続の相続税の負担等を考慮したうえで、一次相続及び二次相続の遺産分割協議を行うことが可能

他方で、二次相続の相続人が一人である場合(ケース2)には、遺産分割協議は行えず、法定相続分で遺産分割されたものとされる(参考となる判例に、東京地裁平成26年3月13日判決東京高裁平成26年9月30日判決)。

(ケース2)
父(一次相続) 母(二次相続)
長男(一人っ子)

この結果、ケース2の場合には、相続税の負担を考慮して遺産分割及び相続税申告を行うことはできず、法定相続分で遺産分割されたものとして、相続税の申告を行わなければならない。また、この場合、一次相続においては、遺産分割は行われてないという前提から、配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用は不可となる(相続税法19条の2第2項及び租税特別措置法69条の4第4項)。もっとも、二次相続においては、一次相続の相続税にかかる債務控除及び相次相続控除の適用が可能である。

なお、一次相続の相続人間(ケース2における母と長男)において、一次相続の遺産分割協議が書面ではないが口頭で行われていた場合には、二次相続の相続人(ケース2における長男)が遺産分割協議証明書を作成して事実を証明し、それに従った、登記及び相続税申告を行うことになる。この場合には、遺産分割協議が行われていることから、配偶者控除や小規模宅地等の特例は適用しうる。

エストニア企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要もしくは5%に軽減?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、エストニア企業に外注する場合には、租税条約によって5%に軽減されるか免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、エストニア政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
エストニアは、国家サービスのデジタル化において先進的な取組みが行われており、IT先進国として知られている。
では、エストニアに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費等の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、エストニアにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、エストニア国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 5%に軽減 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日エストニア租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料に課すことができる税率は5%が上限である(日エストニア租税条約第12条第2項)。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第5項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約

ポーランド企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ポーランド企業に外注する場合には、免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ポーランド政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
ポーランドは、世界的なIT企業などにより積極的に投資が行われており、IT人材が豊富とも言われる(参考記事)。
では、ポーランドに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ポーランドにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ポーランド国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日波租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日波租税条約第12条第2項(b))。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第4項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当しない。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とポーランド人民共和国との間の条約」に係る統合条文

ウクライナ企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ウクライナ企業に外注する場合には、租税条約によって免除となる可能性が高い。

ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、著作権の使用の対価と判断される場合、5%の源泉所得税を控除する必要があると考えられる。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ウクライナ政府の課す税金については検討の対象外としています。

●詳細
(前提)
ウクライナは、国家サービスのデジタル化の分野で、世界的にも先進的な取組みを行っている(参考記事)。
では、ウクライナに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ウクライナにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ウクライナ国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税。ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、5%。(いずれも、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日ソ租税条約第9条第4項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日ソ租税条約第9条第2項a)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約(2024年2月19日署名。2024年9月1日現在未発効。以下同じ。)をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日・ウクライナ租税条約第12条第1項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料の税率は上限の5%となる(日・ウクライナ租税条約第12条第2項)。

② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日ソ租税条約第11条第5項)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約をみるに、本件著作権の譲渡については、不動産・船舶・航空機・株式以外の資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日・ウクライナ租税条約第13条第5項)。

③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。

④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=85442

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/08/pdf/08_03.pdf

『税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び日本国とウクライナの二国間の関係に適用される「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」に係る統合条文』
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/191018ukraine_j.pdf

「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とウクライナ政府との間の条約」(日・ウクライナ租税条約)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20240219uk_JP.pdf