節税」タグアーカイブ

一般的な相続対策のまとめ

相続税の課税が見込まれる方への一般的な相続対策は以下のとおりです。
なお、事業を経営している方などは、これ以外の対策につき別途検討が必要になります。

1.相続財産の評価を下げていただく。

(1)生命保険金の非課税枠(相続人数×5百万円)を活用する。

注意点:評価を下げる目的では、ご本人の配偶者を受取人にしてはいけません。なぜならば、配偶者にかかる相続税は、相続財産1億円6千万円まで非課税となる配偶者控除があるため無税となることが多く、また、この無税となる配偶者を受取人にした場合に非課税枠が「無駄」に使われてしまうからです。配偶者以外の相続人のみで非課税枠を使い切るのが、最も効果が高い活用となります。

(2)子や孫が必要な土地や家屋を、ご本人名義(被相続人となる方)で購入していただく。

注意点:不動産の購入は、それだけで相続財産の評価を下げるという効果がありますが、実際に必要なものに限定します。なぜなら、投資目的の不動産の購入は、相続財産の税務上の評価を下げるだけでなく、資産価値(時価)も下げるからです。なお、ご本人と相続人が同居している場合、土地部分につき小規模宅地の特例の対象にできる可能性があります。
参考記事:https://office-katada.jp/?p=730

2.相続財産を減らしていただく。

(1)扶養義務者として、子や孫へ、贈与税非課税となりうる、生活費又は教育費の贈与を行っていただく。

注意点:社会通念上適当と認められる範囲で、生活費又は教育費を直接、支払っていただきます。生活費又は教育費に充てられず、現金又は預金となった部分は、贈与税の課税対象となります。
詳細は、https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/131206/pdf/01.pdf

(2)子や孫が土地や家屋を必要な場合に、非課税枠のある住宅取得等資金贈与を行っていただく。

注意点:受贈者(子や孫)が、不動産の購入代金(前金を含む)を支払う前に、贈与を行います。
また、受贈者は、直系卑属のみが対象であり、その配偶者は対象となりません。
詳細は、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm

(3)相続人以外の者(一般的には孫や相続人の配偶者など)へ、暦年贈与を行っていただく。

注意点:贈与証書を作成したうえで、受贈者自身が管理する預金口座へ入金を行っていただきます。なお、相続人以外であっても遺贈対象となっている方へは、相続財産の持ち戻しの対象となるため、効果を発揮しない場合があります。

(4)相続人へ、複数年にわたり、暦年贈与や相続時課税制度を用いて生前贈与を行っていただきます。

注意点:令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用が一般的に有利です。
詳細は、https://office-katada.jp/?p=1664

(5)ご本人の充実した人生のためにお金を使っていただく。

弊所では、相続税の事前シミュレーションや相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

新たな相続税低減ツールとなった、相続時精算課税

(概要)
生前贈与による相続対策として、複数年にわたる暦年贈与が従来考えられてきましたが、令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度の活用も考えられるようになりました。

(詳細)
これまで相続時精算課税は、相続時に全額を持ち戻す必要があるため、相続税の低減効果が基本的にありませんでした。加えて、相続時精算課税を選択すると、暦年贈与の110万円の基礎控除が適用できなくなっていました。この結果、相続時精算課税は、相続税が掛からないと見込まれる方からの生前贈与など、限定的な場面での相続対策にしか活用されてきませんでした。

反対に、暦年贈与は、複数年にわたり実施するなどして、相続税率より低い贈与税率を実現し、相続税低減ツールとして活用されてきました。

こうした中、令和5年度税制改正により、相続時精算課税に年間110万円の基礎控除が導入され、また、この基礎控除全額が持ち戻しの対象外となることから、令和6年1月1日以降、相続税低減ツールとして相続時精算課税が活用できることとなりました。

また、同税制改正により、暦年贈与について、相続財産に持ち戻すことが必要な期間が、相続前3年間から相続前7年間に延長されました。これにより、複数年の暦年贈与による相続税低減効果が薄くなりました。

この結果、これまで相続税低減効果のなかった相続時精算課税ではありますが、複数年の暦年贈与より、相続税等をより低減できるケースが出てきました。
グラフ
上のグラフは、資産額1億円、相続人3人(なお、配偶者はいないものとします)、相続発生まで10年という条件下でシミュレーションしたものですが、この場合、10年間にわたる暦年贈与(オレンジ色)よりも、相続時精算課税制度下で10年間の生前贈与(緑色)を行った方が、トータルの税金が低くなることがわかります。

今後、生前贈与による相続対策としては、暦年贈与のほか、相続時精算課税制度の活用できるようになったと言えます。

弊所では、生前贈与による相続対策の有料相談も行っております。ぜひご相談ください。

法人成りは「節税」になるのか。

(概要)
・一定以上の事業所得がない場合には、法人成りにより、税金及び社会保険料の負担合計額は増加します。

(詳細)
・所得税や法人税などの税金は、法人成りにより負担を抑えられる傾向にありますが、他方で、社会保険料の負担が増加する傾向にあります。この両方の負担を考えた場合、一定以上の事業所得がない場合には、法人成りにより、税金及び社会保険料の負担合計額は増加します。例えば、稼いだ利益をすべて役員報酬と法定福利費で支出する場合を仮定した場合、事業主が実質的に負担する所得税や法人税などの税金及び厚生年金保険料や健康保険料などの社会保険料は、次のような推移となり、その合計額は、事業所得が10百万円以下の範囲では、法人成り前より増加します。

・もちろん、社会保険料計算の対象とする報酬には上限があるし、所得税率は累進税率であることから、事業所得が一定額を超えた場合には、法人成りが有利になる可能性があります。また、法人化した場合、現役引退時に役員退職慰労金として支出すれば、(1)社会保険料が課されない、(2)一定の範囲内で法人の損金となる、(3)個人の所得計算上も有利になるなどの理由により、法人成りが有利になる範囲は広げられます。ただし、役員退職慰労金として支払うまで全額の課税を繰り延べた例を考えても、個人事業より有利になる所得水準は、相応に高いものとなります(下図の例では、約15百万円)。

・加えていうと、課税の全額を繰り延べることは極端な事例であり、実際には限定的になされると思いますので、その場合には、前述の水準はさらに上がります。逆に、厚生年金に加入できない70歳以上の方が法人成りをする場合や多額のいわゆる「社会保険料対策」を行う場合にはその水準は下がります。
・本投稿においては、例えば年金受給額の影響を無視するなど、さまざまな仮定を明示せずにおいていますので、実際の判断にあたっては、顧問の税理士にご相談をお願いします。

節税にこだわり大事を忘れるな

<概要>
・節税と思っている取引も実は、「節税」のための取引コストが実は節税額を上回っていた、あるいは、「節税」のための支出のために、必要な投資ができなくなる、借入返済ができなるという失敗例がある。
・節税は、内部留保を増やしていくために税金をきっちりと納めていくことを基本にしたうえで、税額控除制度や免税制度、各種の税率差等を活用して、納税額を適度に低減していくことにある。

<詳細>
「小事に拘りて大事を忘るな」ということわざがある。目先の小事にこだわって肝心な大事を忘れてはならないという意味であるが、いわゆる「節税」についても同様の事が起こらないようにしたい。

「節税」と世の中でいわれている取引は、その効果に着目すると、次の2つに分けられると思う。
① スキーム全体での税額の低減(本当の意味の節税)
② 単なる課税の繰り延べ
節税と思っている取引も実は、スキーム全体で見れば、②のように単なる課税の繰り延べに過ぎないということがある。
たとえば、法人税において、今期儲かったからと、特別償却や生命保険を活用した一時的な損金の計上を行う場合があるが、これは将来的な損金の減少及び益金の増加を伴う。もし業績が今後も好調であれば、課税の繰り延べに過ぎない可能性が高い。
また、相続税についても、節税するスキームが、実は、その「節税額」以上に、法人税を増税させるスキームだけだったというものもある。
①の意味での節税を実現することは、税額控除制度や免税制度、各種の税率差を利用した節税以外、実は、なかなか難しい。

また、「節税」を行った場合のよくある失敗例として
③ 「節税」のための取引コストが、実は節税額より大きかった。
ということがある。
例えば、節税商品のパンフレットには、シミュレーションが記載されている場合が多いが、商品払込時の節税額は含まれているのに、配当や譲渡時(解約時)の課税額が計算されていないというものも存在する。これよって、「節税」のための取引コストが節税額より大きいということが隠されている。

さらに、厳しい失敗例としては、
④ 「節税」のための支出で、資金繰りが苦しくなる。
ということがある。
法人税や所得税の場合、事業から課税所得が得られている中で、損金性の商品を購入してその税金を払わないようにするためには、毎年、事業から得られる所得と同額以上の損金性の商品を購入しなければならなくなる。すると、事業から得られた儲けは、ほぼ、その商品の購入のための支出に回すことになる。そうすると、将来への投資あるいは、過去の借入の返済ができなくなる。すなわち、税金を払わないという発想の節税では、事業を継続できなくなる。内部留保を作っていくには、所得をプラスにして、所得に対する税金を支払う必要がある。

節税は、内部留保を増やしていくために税金をきっちりと納めていくことを基本にしたうえで、税額控除制度や免税制度、各種の税率差等を活用して、納税額を適度に低減していくことにある。