<本投稿の要約>
・『捨てられる銀行』では、子会社のサービサーに20代の行員を毎年送りこんでいる地域銀行が紹介されている。
・事業再生への取組み経験を、金融機関の標準的なキャリアプランに入れることは、有用と思われる。
<詳細>
前回の投稿で、様々な示唆に富むと、橋本卓典『捨てられる銀行』(2016年講談社、以下「前掲書」と記す)を紹介しましたが、勉強になった点を追加で書いていきたいと思います。
前回は、地域の中核企業と協力する広島銀行に触れさせていただきましたが、今回は、その子会社の「しまなみサービサー」(しまなみ債権回収株式会社)に関してです。サービサーというのは、経営が困難になった先の債権を銀行から切り離して、回収・管理する機関のことを一般的に指しますが、このしまなみサービサーでは、銀行から「単に債権を売却して終わりという一方通行の関係ではない。可能な場合には、金融機関が再び融資できる状態まで事業再生を手掛けるノウハウと体制を整えている」(前掲書90頁)とされています。この点は昨今のサービサーでは既に珍しくないのかもしれませんが、設立後、「十数年を経過しても20代の行員が毎年送り込まれている。平均年齢は40台前半」(前掲書91頁)という点は、「多くのサービサーは定年後の行員の出向先となっている」(前掲書91頁)中では、「異例」でしょう。
では、なぜ、このようなことができるかというと、同書では、「若い行員が債権回収だけでなく、事業再生という経験を積んで、銀行に戻っていく。この流れが投資銀行ビジネスの強化につながる好循環をもたらしていくことになる」(前掲書91頁)からだとしています。
しかし、事業再生の経験は、投資銀行ビジネスの強化につながるだけではないはずで、例えば、信用保証制度や金検マニュアル偏重によって喪失したと同書がいうところの融資の「目利き力」を鍛えるからこそ、人事戦略上重視すべきなのだと思います。
例えば、現在、「事業性評価」に基づく融資等の促進が求められています(参考:金融庁パンフレット「円滑な資金供給の促進に向けて」)が、企業訪問や経営相談等を通じて、事業の内容や成長可能性から融資を判断するということは、反面で、同種の情報から、融資しない判断も下せるということでもあり、それは、回収できなかった先を、不可抗力ともいえる外部環境の変化によるものか、そうでないといえる部分もあったのか等、深く知ることではじめて可能になると思われるからです。
また、成長力のある企業も、外部環境の変化によって、一時的な苦境に立たされるときもあると思います。そうした時に、事業再生におけるノウハウと経験が活きるとすれば、事業性のある事業者とのリレーションを深めることができ、それは、営業力の向上につながるとも言えるのではないでしょうか。
事業性のある事業者を育てる地域金融がより促進されることを祈っています。