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エストニア企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要もしくは5%に軽減?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、エストニア企業に外注する場合には、租税条約によって5%に軽減されるか免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、エストニア政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
エストニアは、国家サービスのデジタル化において先進的な取組みが行われており、IT先進国として知られている。
では、エストニアに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費等の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、エストニアにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、エストニア国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 5%に軽減 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日エストニア租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料に課すことができる税率は5%が上限である(日エストニア租税条約第12条第2項)。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日エストニア租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第5項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエストニア共和国との間の条約

ポーランド企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて20.42%の源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ポーランド企業に外注する場合には、免除となる可能性が高い。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ポーランド政府の課す税金については議論の対象外としています。

●詳細
(前提)
ポーランドは、世界的なIT企業などにより積極的に投資が行われており、IT人材が豊富とも言われる(参考記事)。
では、ポーランドに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ポーランドにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ポーランド国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税 (なお、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (なお、租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日波租税条約第12条第5項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日波租税条約第12条第2項(b))。
② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日波租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日波租税条約第13条第4項)。
③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。
④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。)。

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当しない。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』

「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とポーランド人民共和国との間の条約」に係る統合条文

ウクライナ企業へのソフトウエア開発外注に係る源泉所得税は不要?

●概要
海外の企業に対してソフトウエア開発を外注する場合、著作権の使用許諾や譲渡が行われていると認められるときなどに、外注費の支払いにおいて源泉所得税を控除しなければらないことがある。そのときでも、ウクライナ企業に外注する場合には、租税条約によって免除となる可能性が高い。

ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、著作権の使用の対価と判断される場合、5%の源泉所得税を控除する必要があると考えられる。

なお、本稿は、研究を目的に掲載するもので、実務上の適用にあたっては、顧問の弁護士や税理士にご相談ください。また、本稿では、ウクライナ政府の課す税金については検討の対象外としています。

●詳細
(前提)
ウクライナは、国家サービスのデジタル化の分野で、世界的にも先進的な取組みを行っている(参考記事)。
では、ウクライナに所在する法人又は個人(以下、外注先)に対して、ソフトウエアの開発を日本企業(以下、委託者)が外注する場合、委託者は外注費の支払いに際して、どのような日本国での税務が必要となるのであろうか。

検討を容易にするため、次の場合を検討する。
事例① 委託者は、外注先の保持する著作権の使用許諾を受けて、納品データを日本国内で使用や複製する。
事例② 委託者は、納品データとともに、外注先から著作権の譲渡を受ける。
事例③ 納品データに著作性はなく、外注に際して著作権の譲渡を伴わない。
事例④ 委託者は、個人の外注先を従業員(非役員)として雇用し、ウクライナにおいて勤務する(なお、このとき著作権は職務著作として委託者に原始的に帰属するものとする)。

外注先は、日本に支店や代理人を有していないものとする。また、外注先は、委託された作業を、ウクライナ国内においてのみ行い、データのみを通じて納品するものとする。

(結論)
1 (日本国の)源泉所得税:
事例① 免税。ただし、2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払いについては、5%。(いずれも、租税条約に関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例② 免税 (租税条約の関する届出書を日本国の税務署に提出する必要あり(注1))
事例③ 源泉徴収不要
事例④ 源泉徴収不要(なお、両国での社会保険、労働保険、労働法等の適用について別途検討を要することに留意)
2 (日本国の)消費税:
不課税

(理由)
1 源泉所得税
① まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日ソ租税条約第9条第4項)ため源泉地は日本国内となるが、文化的使用料として免税である(日ソ租税条約第9条第2項a)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権使用料の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約(2024年2月19日署名。2024年9月1日現在未発効。以下同じ。)をみるに、使用料の源泉地の判定について債務者主義を取る(日・ウクライナ租税条約第12条第1項)ため源泉地は日本国内となるが、使用料の税率は上限の5%となる(日・ウクライナ租税条約第12条第2項)。

② まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日宇間の租税条約として適用される日ソ租税条約をみるに、著作権の譲渡については、資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日ソ租税条約第11条第5項)。

(2024年2月19日に署名された日・ウクライナ租税条約の適用後の支払い)
まず、日本国の所得税法をみると、著作権の譲渡対価の源泉地判定について、使用地主義が採用されており、本件の源泉地は日本国内となるため、20.42%の源泉徴収が必要である(所得税法第161条第1項第11号ロ)。そのうえで、日・ウクライナ租税条約をみるに、本件著作権の譲渡については、不動産・船舶・航空機・株式以外の資産の譲渡として解釈でき、譲渡者の居住地国のみで課税できることから、日本国では免税となる(日・ウクライナ租税条約第13条第5項)。

③ 所得税法第161条第1項第6号及び第12号に国内源泉所得として規定されている人的役務提供事業及び人的役務提供の対価は、国内に所在して役務提供を行うことを前提としている。したがって、日本国の所得税法において、本件役務提供は、国内源泉所得に該当しない。

④ 日本国の所得税法では、役員でない従業員の海外勤務について国内源泉所得としておらず、源泉所得税を課していない(所得税法第161条第1項第12号イ)。

注1 実務上届出書を提出するが、届出書の提出は効力要件ではなく「提出がなければ軽減免除がされないということにはならない」(牧野好孝『事例でわかる国際源泉課税第3版』税務研究会出版局、2020年)という考え方が有力である(東京地裁平成27年5月28日判決も同趣旨。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=85442

2 消費税
①〜③ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、外国において役務提供が行われるため、国外取引として不課税
④ 消費税法上の資産の譲渡等に該当するが、雇用契約に基づく労働であり、「事業」として行っていないため不課税。

(参考文献)
東京国税不服審判所次席国税審判官 小島 俊朗「プログラム開発を海外に委託する場合の手数料への課税とその所得区分について」『税大ジャーナル 8 2008. 6』https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/08/pdf/08_03.pdf

『税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」及び日本国とウクライナの二国間の関係に適用される「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」に係る統合条文』
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/191018ukraine_j.pdf

「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とウクライナ政府との間の条約」(日・ウクライナ租税条約)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20240219uk_JP.pdf