法人の税金」カテゴリーアーカイブ

給与支払いがない場合の源泉税の納付方法

(概要)
・給与支払がない場合には、税務署より源泉税の納付書が自動的に送られてこない。(2019年6月6日現在)
・それでも、士業報酬等にかかる源泉税の納税は必要であり、この場合の納税方法としては、電子申告及びダイレクト納付登録を税理士に委任するのが便利。
・どうしても納付書により納税したい場合には、税務署に連絡し納付書を複数部取り寄せておき、必要に応じて歳入年度を訂正して用いればよい。
・なお、納付書を取り寄せる方法としては、電話(納税者自身に送付する場合)や郵送で取り寄せる方法もあるが、源泉税の納期特例申請提出時に、給与支払事務所等にかかる開設届出書も作成・提出し、その中の「その他参考事項」に「給与支払はないが士業報酬支払があるため、納付書を〇部送付してほしい」旨記載しておく実務も考えられる。

(詳細)
<給与支払がない場合には、税務署より源泉税の納付書が自動的に送られてこない>
法人であっても、次のような場合には、給与支払いがないことがある。
・親会社等が存在しており、全員出向者で構成されている法人
・役員の個人資産に余裕があり社会保険料を支払ってまで役員報酬を必要としない、あるいは、設立直後で財源がないなどの理由で、役員報酬や従業員給与を支出していない法人
個人の場合には、給与支払いがない場合には、士業報酬等にかかる源泉所得税の源泉義務はない。しかし、法人の場合には、給与支払いがなくとも、士業報酬等にかかる源泉所得税の源泉義務がある。こうした中、税務署の事務では、前年に給与支払にかかる源泉税が申告されていない場合、納付書の送付は行われず(2019年6月6日現在)、また、納税者や整理番号の入っていない源泉税の納付書を税理士には発行してくれないため、給与支払いのない法人の源泉税の納付方法が問題となる。

<給与支払がない場合には、士業報酬等にかかる源泉税は、電子申告及びダイレクト納付が便利>
この場合の納付書の入手は、後述のように面倒であることから、ダイレクト納付の手続きを済ませ、税理士に電子申告及びダイレクト納付を委任することが効率的だと考えられる。

<どうしても納付書により納税したい場合には、税務署に連絡し納付書を複数部取り寄せる。>
ただ、どうしても納付書により納税したい場合には、税務署に連絡し納付書を複数部取り寄せておく。このとき、将来の納入分については、歳入年度が空白のものをもらえばよいが、税務署は、歳入年度が空白の納付書は交付してくれない(2019年6月6日現在)。よって、歳入年度が異なる場合には、必要に応じて歳入年度を訂正して用いる。

<源泉税の納期特例申請提出時に、給与支払事務所等にかかる開設届出書を提出して、納付書を取り寄せるという方法もある。>
なお、納付書を取り寄せる方法としては、電話(納税者自身に送付する場合)や郵送で取り寄せる方法もあるが、上記のような法人で本人もしくは税理士が必ず提出するであろう、源泉税の納期特例申請提出時に、給与支払事務所等にかかる開設届出書も作成・提出し、その中の「その他参考事項」に「給与支払はないが士業報酬支払があるため、納付書を〇部送付してほしい」旨記載しておく実務も考えられる。このような場合に、同届出書の提出義務は所得税法上ない(注)が、税務署実務ではその提出を受理している模様である。なお、複数部の納付書を取り寄せておくのは、前述の記載をしても、毎年自動的に送付されるわけではないためである。

注 所得税法第二百三十条ほかの定めをみるに、給与支払がない場合には、源泉が必要な報酬があったとしても、給与支払事務所等の開設届出書の提出義務はないものと考えられる。

所得税法
(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)
第二百三十条 国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、又はこれらを移転し若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。

所得税法施行規則
(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)
第九十九条 国内において法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払事務を取り扱う事務所、事業所その他これらに準ずるもの(以下この条において「給与支払事務所等」という。)を設け、又はこれを移転し、若しくは廃止した者は、その事実につき前条の届出書を提出すべき場合を除き、法第二百三十条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)の規定により、次に掲げる事項を記載した届出書を、その給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長(給与支払事務所等を移転する場合には、その移転前の給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長)に提出しなければならない。
一 その届出書を提出する者の氏名又は名称、住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地及び個人番号又は法人番号(個人番号及び法人番号を有しない者にあつては、氏名又は名称及び住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地)
二 給与支払事務所等を設け、又はこれを移転し、若しくは廃止した旨及びその年月日
三 給与支払事務所等の所在地(給与支払事務所等を移転する場合には、その移転前の給与支払事務所等の所在地及びその移転後の給与支払事務所等の所在地)
四 その届出書を提出する日の現況におけるその給与支払事務所等において給与等の支払を受ける者の職種等の別の人員数
五 その他参考となるべき事項

所得税法
(給与所得)
第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

 

過年度について修正申告や更正の請求がある場合の別表五(二)の書き方

(概要)
・別表五(二)に記載する未納税額は、国税に提出した修正申告や更正の請求の内容に連動させる。
・別表五(二)に記載する納税充当金は、企業会計上の勘定科目(未払法人税等、未払事業税)に連動させる。

(詳細)
日本の企業会計では、平成21年12月4日に「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)と同適用指針(企業会計基準適用指針第24号)が公表されました。 この結果、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後、会計方針や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、あたかも新たな会計方針や表示方法等を過去の財務諸表にさかのぼって適用していたかのように会計処理又は表示の変更等を行うこととなりました。では、このとき、過年度の税務申告について、修正申告や更正の請求を行う場合、税務申告書の記載はどのように行ったらいいのでしょうか。別表四及び別表五(一)の記載については、言及している書籍やサイトも多いので、以下では、別表五(二)について私見を述べていきます。判断に迷う場合には、所轄の税務署に相談していただければと思います。

別表五(二)の記載の基本的な考え方について

・別表五(二)に記載する未納税額は、国税に提出した修正申告や更正の請求の内容に連動させる。

・納税充当金は、税務申告上の未納税額ではなく、企業会計上の未払税金(「未払法人税等」「未払事業税等」など)に係る勘定科目残高を反映させる。

・過年度について修正申告や更正の請求を行った場合に、企業会計上も遡及修正した場合には、「期首現在未納税額①」(事業税の場合は「当期発生額②」)及び「期首納税充当金㉛」を修正したうえで(注)、「充当金取崩しによる納付③」を反映する。ただし、地方税のみの修正申告や更正の請求を行い国税について修正申告や更正の請求を伴わなかった場合、前述の取扱いのうち「期首現在未納税額①」の修正は、「当期発生額②」の修正と読み替える。

注 過年度の企業会計上の遡及修正に合わせて、別表五(二)の納税充当金の期首を変更する場合には、別表五(一)の「納税充当金」期首も変更することになるが、同時に「繰越損益金」はじめ利益積立金各区分の期首も、企業会計上の遡及修正に合わせて変更することで、別表五(一)利益積立金の「差引合計額」期首に変更がないようにし、別表五(一)利益積立金の連続性を差引合計額ベースで維持する。

・過年度について修正申告や更正の請求を行った場合に、重要性に鑑み遡及修正せず当期の法人税等や事業税等として会計処理した場合には、「期首現在未納税額①」(事業税の場合は「当期発生額②」)を修正したうえで、「損金経理による納付⑤」に反映する。ただし、地方税のみの修正申告や更正の請求を行い国税について修正申告や更正の請求を伴わなかった場合、前述の取扱いのうち「期首現在未納税額①」の修正は、「当期発生額②」の修正と読み替える。

・以上の取扱いで、企業会計上の未収税金(「未収還付法人税等」など)に係る勘定科目残高の遡及修正が生じる場合には、別表五(一)における利益積立金の調整区分(「仮払税金」等)に反映するか、別表五(二)の納税充当金をマイナス表示にする。

・事業税の修正申告を行った場合、修正申告を行った日の属する事業年度に損金算入することが原則であるが、修正申告の対象が前々期などの場合、修正申告対象年度の翌期に減算することもできる。この方法を採用する場合には、修正申告対象年度の翌事業年度に別表四で減算・留保したうえで、修正申告にかかる納税を行った事業年度に当該留保金額を別表四で加算・留保という調整を行うが、実際の事業税追徴税額と損金認容額が異なることがあるから、原則通り、別表五(二)の記載は、修正申告を行った日の属する事業年度において当期発生額②に記載し、追徴税額の納付を行った事業年度に「損金経理による納付⑤」に反映することがわかりやすい。

編集履歴 2018年10月26日 地方税のみ修正申告や更正の請求を行った場合の取扱いを追記しました。2022年7月22日 遡及修正の場合の別表五(一)への影響を追記しました。

節税にこだわり大事を忘れるな

<概要>
・節税と思っている取引も実は、「節税」のための取引コストが実は節税額を上回っていた、あるいは、「節税」のための支出のために、必要な投資ができなくなる、借入返済ができなるという失敗例がある。
・節税は、内部留保を増やしていくために税金をきっちりと納めていくことを基本にしたうえで、税額控除制度や免税制度、各種の税率差等を活用して、納税額を適度に低減していくことにある。

<詳細>
「小事に拘りて大事を忘るな」ということわざがある。目先の小事にこだわって肝心な大事を忘れてはならないという意味であるが、いわゆる「節税」についても同様の事が起こらないようにしたい。

「節税」と世の中でいわれている取引は、その効果に着目すると、次の2つに分けられると思う。
① スキーム全体での税額の低減(本当の意味の節税)
② 単なる課税の繰り延べ
節税と思っている取引も実は、スキーム全体で見れば、②のように単なる課税の繰り延べに過ぎないということがある。
たとえば、法人税において、今期儲かったからと、特別償却や生命保険を活用した一時的な損金の計上を行う場合があるが、これは将来的な損金の減少及び益金の増加を伴う。もし業績が今後も好調であれば、課税の繰り延べに過ぎない可能性が高い。
また、相続税についても、節税するスキームが、実は、その「節税額」以上に、法人税を増税させるスキームだけだったというものもある。
①の意味での節税を実現することは、税額控除制度や免税制度、各種の税率差を利用した節税以外、実は、なかなか難しい。

また、「節税」を行った場合のよくある失敗例として
③ 「節税」のための取引コストが、実は節税額より大きかった。
ということがある。
例えば、節税商品のパンフレットには、シミュレーションが記載されている場合が多いが、商品払込時の節税額は含まれているのに、配当や譲渡時(解約時)の課税額が計算されていないというものも存在する。これよって、「節税」のための取引コストが節税額より大きいということが隠されている。

さらに、厳しい失敗例としては、
④ 「節税」のための支出で、資金繰りが苦しくなる。
ということがある。
法人税や所得税の場合、事業から課税所得が得られている中で、損金性の商品を購入してその税金を払わないようにするためには、毎年、事業から得られる所得と同額以上の損金性の商品を購入しなければならなくなる。すると、事業から得られた儲けは、ほぼ、その商品の購入のための支出に回すことになる。そうすると、将来への投資あるいは、過去の借入の返済ができなくなる。すなわち、税金を払わないという発想の節税では、事業を継続できなくなる。内部留保を作っていくには、所得をプラスにして、所得に対する税金を支払う必要がある。

節税は、内部留保を増やしていくために税金をきっちりと納めていくことを基本にしたうえで、税額控除制度や免税制度、各種の税率差等を活用して、納税額を適度に低減していくことにある。

被合併法人の電子申告・届出における各種番号

(要約)
以下の通り指導されている模様(2021年12月7日現在)
税務署      合併法人の利用者識別番号(etax)・法人番号等
静岡県財務事務所 どちらでもよい。
浜松市市民税課  被合併法人の利用者ID(eltax)・法人番号等

(税務署詳細)
被合併法人の利用者識別番号は、合併の届け出を行うことによって廃止されるが、当該法人の最終の確定申告を電子申告するにあたっては、国税庁の正式なアナウンスメントはないが、税務署では、合併法人の利用者識別番号を用いることを指導している模様である。
また、申告書に記載する法人番号や、税務署番号・整理番号が記載された納付書についても、被合併法人ではなく合併法人のものを用いることが指導されている模様である。

(県財務事務所詳細)
静岡県では、どの法人の申告・届出かわかるようであればどちらでもよいと指導されている模様である。

 

経営における社会保険料認識の重要性

<要旨>

  1. 厚生年金保険等の加入指導は、平成27年度から、国税源泉徴収義務者情報に基づいて行われている。
  2. 日本年金機構は、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合は、立入検査を行い認定による加入手続を実施する。 」としている。
  3. 認定による加入が行われた場合、過去2年に遡って社会保険料が徴収される可能性がある。
  4. 「従業員」がおらず、代表者のみに対して報酬を支払う会社であっても、適用事業所となる。
  5. 法人税等の法定実効税率が約21~34%であるのに対して、厚生年金保険と健康保険を合わせた社会保険料の料率は約30%と大きな差がなくなっており、タックスプランニングとともに、社会保険料認識の重要性が高まっている。
  6. 年間の報酬額は一緒であっても、報酬の支払方法によって、社会保険料が変わってくる。

<詳細>

日本年金機構は、平成27年度年度計画において、厚生年金保険・健康保険等の適用促進について、「平成27年度以降の3か年において優先的に職員による加入指導等に取り組む」としました。具体的には、調査手法では、これまで見られなかった手法が導入され、「国税源泉徴収義務者情報」すなわち、税務当局の持つ給与等支払者の情報に基づき、「文書勧奨」や「加入指導」を行うこととされました。

さらに、「加入指導を複数回実施しても加入の見込みがない事業所」に対する「立入検査」及び「認定による加入手続」は、平成27年度は「必要に応じて」実施するとしていたところ、平成28年度年度計画では、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合」と明確化されました。

すなわち、日本年金機構は、最終催告状を送付しても加入に応じない場合には、職権により認定による加入手続(厚生年金保険法18条2項ほか)を行いますが、この場合、最大、2年間に遡って保険料等が徴収される可能性があります。これは、保険料等の徴収金の消滅時効が2年である(厚生年金保険法92条)ためです。

ところで、厚生年金保険の目的は、「労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上」(厚生年金保険法第1条)にありますが、「労働者」のいない役員(例えば、代表取締役)のみの会社であっても、厚生年金保険の適用はあるのでしょうか。この点、広島高裁岡山支部(昭38・9・23、高裁判例集 第16巻7号514頁)は、憲法25条(生存権)の趣旨を踏まえると、同法において労使間の差異を考慮する必要はなく、「厚生年金保険法第九条にいう事業所に使用される者とは、法人の代表者を含むものと解すべき」としました。すなわち、国民の生活の安定と福祉の向上のためであるから、代表者であっても、法人に使用される者から排除されないと判断したわけですね。こうした司法判断もあり、「法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であって、他面その法人の事務の一部を担任し、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、被保険者」(厚生労働省昭24・7・28 保発第74号)となる運用が続いています。

以上の外部環境を踏まえると、従業員のいる会社の経営者のみならず、取引における信用力や各種税制上のメリットを踏まえて、法人成りを選択した、あるいは法人成りを選択する経営者にとって、社会保険料を認識する重要性は高まっているといえます。実際、法人所得に対する法定実効税率は、資本金1億円以下の会社で、21.42%(法人所得400万円以下の部分)から33.8%(法人所得800万円超の部分)であるのに対し、社会保険料は、報酬あるいは賞与に対して、29.872%(東京都、40歳~65歳、平成28年9月分、健康保険組合ない場合。報酬等を受ける方の負担分含む。雇用保険・労災保険除く。)と同程度です。例えば、株主でもある役員に対して、配当ではなく役員報酬を支払うことによる法人税等の減額効果と社会保険料の増額の程度は、同程度になっている可能性があるといえます。

では、法に基づき社会保険料を支払う中で、経営に与えるインパクトを緩和することは可能でしょうか。厚生年金や健康保険の保険料は、報酬月額あるいは賞与額に基づき定められた標準報酬月額あるいは標準賞与額に保険料率を乗じて算定され、税のように控除項目が定められていないことから、その余地はほとんどありません。ただし、標準報酬月額や標準賞与額には上限があることから、年間の報酬等の総額は同じであっても、支払方法によって、社会保険料が変わってくることがあります。また、現在の法令において、退職金(前払退職金等を除く)は、厚生年金保険法や健康保険法にいう「報酬」や「賞与」や含まれないと解されていることから、税務上の過大役員退職金の問題に留意しながら、報酬や賞与と、退職金とのバランスを見直すことにより、社会保険料を変えられることがあります。