提出した申告書の控えを紛失したとき(個人向け)

<要約>
過去の申告書の控えを紛失してしまった場合などには、税務署のサービス・手続きが利用できる。

<詳細>
過去の申告書の控えを紛失してしまった場合などには、税務署のサービス・手続きを利用することが可能である。
具体的には、(1)申告書等の閲覧サービス(閲覧のみ)、(2)開示請求の手続き(複写)の二つがある。
本人が税務署に赴けば問題ないが、本人以外が手続きする際には、下記のように取り扱われる。
1.閲覧については、代理人(だだし親族、税理士等のみ)が、申請可能
2.開示請求(複写)については、マイナンバーの記載のない個人の申告書については、代理人は認められないが、平成28年分以降の申告書でマイナンバーの記載のある申告書については、代理人(親族や税理士以外でも可)が申請可能

なお、どちらの手続きも、代理人の場合は、実印の押印のある委任状と印鑑証明書が必要となる。
なお、開示請求については、本人が郵送で申請することができるが、住民票が必要となる。
https://www.nta.go.jp/sonota/sonota/kojinjoho/tetsuzuki/03.htm

 

被合併法人の電子申告・届出における各種番号

(要約)
以下の通り指導されている模様(2021年12月7日現在)
税務署      合併法人の利用者識別番号(etax)・法人番号等
静岡県財務事務所 どちらでもよい。
浜松市市民税課  被合併法人の利用者ID(eltax)・法人番号等

(税務署詳細)
被合併法人の利用者識別番号は、合併の届け出を行うことによって廃止されるが、当該法人の最終の確定申告を電子申告するにあたっては、国税庁の正式なアナウンスメントはないが、税務署では、合併法人の利用者識別番号を用いることを指導している模様である。
また、申告書に記載する法人番号や、税務署番号・整理番号が記載された納付書についても、被合併法人ではなく合併法人のものを用いることが指導されている模様である。

(県財務事務所詳細)
静岡県では、どの法人の申告・届出かわかるようであればどちらでもよいと指導されている模様である。

 

役員借入金を免除させるのではなく、役員借入金を返済させていく方がお得?

<要旨>
・経営改善計画等において、財政状態の改善あるいは経営責任の履行のために、役員借入金の免除(放棄)を受けることがあるが、DIP(経営者が継続関与する)タイプの計画においては、役員借入金の免除を受けず、役員報酬の支給の代わりに役員借入金を返済することにした方が、金融機関にとっても経済合理性が高い場合がある。

<詳細>
経営改善等計画の立案時においては、財政状態の改善あるいは経営責任の履行のために、役員借入金の免除(役員から会社への貸付金の放棄)を計画することがある。
このとき、多額の役員借入金の免除であっても、税務上の繰越欠損金(法的整理あるいはそれに準ずる場合には、期限期限切れ欠損金を含む)が十分にある場合には、法人のタックスプランニングに影響を与えないことをもって税務上のリスクがないと判断することが多いと思う。
しかし、その後の社会保険料や役員個人に課される所得税等を考慮すると、その判断は今一度検討したいところである。
なぜなら、計画期間中の役員に対する支出を最低限に抑える計画の場合、手取りを基準に計算することになるが、役員借入金の返済と異なり、役員報酬として支払う場合には、当該報酬に対する社会保険料や所得税を上乗せして報酬額を計算する必要があるからである。他方、役員借入金の返済として支出するのであれば、原則として、社会保険料及び個人に対する所得税は発生しないことになる。
特に、前稿「経営における社会保険料認識の重要性」に記したように法人に対する社会保険の加入を当然の前提にすべきことになった昨今においては、報酬額面の約30%にも上る社会保険料の負担は無視できないであろう。
計画期間中の無計画な資金流出を防ぐためにも、計画立案時に、役員報酬の支給の代わりに役員借入金を返済することとするか、経営者と金融機関とのコミュニケーションを深めて頂くよう、私どもとしても提案して参りたい。

 

弥生PAP会員ゴールド認定証頂きました。


私たちの会計事務所では、いくつかの会計ソフトの中からお客様に最適と考えられるものを活用頂いておりますが、この中で使い勝手の良い安価な会計ソフトとして、多くのお客様に”弥生会計”を活用頂いております。今般、この"弥生会計"の提供会社より、ゴールド会員として認定頂きましたのでご報告致します。同認定は、弥生会計を扱う静岡県内107事務所のうち、弊事務所を含む5つの事務所のみが対象となりました。

今後とも、経営者の皆様のお役に立つ事務所を目指して参ります。

『捨てられる銀行』を浜松にて読む その2


<本投稿の要約>

・『捨てられる銀行』では、子会社のサービサーに20代の行員を毎年送りこんでいる地域銀行が紹介されている。

・事業再生への取組み経験を、金融機関の標準的なキャリアプランに入れることは、有用と思われる。

<詳細>

前回の投稿で、様々な示唆に富むと、橋本卓典『捨てられる銀行』(2016年講談社、以下「前掲書」と記す)を紹介しましたが、勉強になった点を追加で書いていきたいと思います。

前回は、地域の中核企業と協力する広島銀行に触れさせていただきましたが、今回は、その子会社の「しまなみサービサー」(しまなみ債権回収株式会社)に関してです。サービサーというのは、経営が困難になった先の債権を銀行から切り離して、回収・管理する機関のことを一般的に指しますが、このしまなみサービサーでは、銀行から「単に債権を売却して終わりという一方通行の関係ではない。可能な場合には、金融機関が再び融資できる状態まで事業再生を手掛けるノウハウと体制を整えている」(前掲書90頁)とされています。この点は昨今のサービサーでは既に珍しくないのかもしれませんが、設立後、「十数年を経過しても20代の行員が毎年送り込まれている。平均年齢は40台前半」(前掲書91頁)という点は、「多くのサービサーは定年後の行員の出向先となっている」(前掲書91頁)中では、「異例」でしょう。

では、なぜ、このようなことができるかというと、同書では、「若い行員が債権回収だけでなく、事業再生という経験を積んで、銀行に戻っていく。この流れが投資銀行ビジネスの強化につながる好循環をもたらしていくことになる」(前掲書91頁)からだとしています。

しかし、事業再生の経験は、投資銀行ビジネスの強化につながるだけではないはずで、例えば、信用保証制度や金検マニュアル偏重によって喪失したと同書がいうところの融資の「目利き力」を鍛えるからこそ、人事戦略上重視すべきなのだと思います。

例えば、現在、「事業性評価」に基づく融資等の促進が求められています(参考:金融庁パンフレット「円滑な資金供給の促進に向けて」)が、企業訪問や経営相談等を通じて、事業の内容や成長可能性から融資を判断するということは、反面で、同種の情報から、融資しない判断も下せるということでもあり、それは、回収できなかった先を、不可抗力ともいえる外部環境の変化によるものか、そうでないといえる部分もあったのか等、深く知ることではじめて可能になると思われるからです。

また、成長力のある企業も、外部環境の変化によって、一時的な苦境に立たされるときもあると思います。そうした時に、事業再生におけるノウハウと経験が活きるとすれば、事業性のある事業者とのリレーションを深めることができ、それは、営業力の向上につながるとも言えるのではないでしょうか。

事業性のある事業者を育てる地域金融がより促進されることを祈っています。

 

 

『捨てられる銀行』を浜松にて読む その1

<本投稿の要約>

・地域金融機関は、直接融資を行っていなくとも、地域の中核企業とコミュニケーションを取ることが重要ではないか。

・地域金融機関がコミュニケーションを深める手法の一つとして、当該企業の株式の取得は考えられないか。

・地域金融機関のそうしたコミュニケーションが、当該企業の長期的成長のシグナルと考えられる場合には、当該投資について機関投資家と地域金融機関が協力する余地はないか。

<詳細>

少し前に話題となった、橋本卓典『捨てられる銀行』(2016年講談社、以下「前掲書」と記す)を遅まきながら読ませていただきました。いろいろ示唆に富む書かと思いますが、まず、勉強になったのが、地域金融機関と地域の中核企業との協力です。

金融庁「金融仲介の改善に向けた検討会議」に関連して広島銀行の取組みを紹介していますが、「広島銀行はマツダと連携し、的確な『処方箋』を与えることができるようになった。」(前掲書48頁)とあります。つまり、「マツダにとって代替のきかない技術をもったサプライヤーであるならば、たとえ財務内容が厳しくても、経営再建まで踏み込んで必ず支えなければならない」ことから、広島銀行は、マツダと連携し、「対象企業を『技術』と『財務』の両面の優劣で評価する」ことができるようにしたとのことです。

融資先を、技術と財務の両面で優劣を単に評価するだけでなく、その取引先の地域的中核である「マツダと連携」するという点は、地域活性化に対する同行の本気を感じるとともに、実際に当事者及び地域の長期的成長にとって有益と考えられます。

これを浜松に置き換えて考えると、自動車産業だけでなく、光関連などの製造業の分野で応用も可能かもしれません。

ただし、「代替のきかない技術」かどうかを峻別するような企業秘密にかかわる情報を、どうやってそうした中核企業から引き出すか、そこは課題かもしれません。もし直接の融資取引がない先だとしたら、なおさらです。

それに対しては、地域金融機関は、当該企業の株式の一部に投資し、中核企業との関係をより強固なものとし協力を得ていくという解決があるかもしれません。

また、もし預金取扱金融機関だけで、株式に直接投資することに懸念があるということであれば、当該地域外の機関投資家と協力するということも考えられます。なぜなら、地域金融機関のそうしたコミュニケーションが、当該企業の長期的成長のシグナルと考えられる場合には、機関投資家にとっても、新たな収益機会と考えられるからです。

各地の地域金融機関と中核企業が協力して、地域経済を活性化していくことを願っています。

 

 

経営における社会保険料認識の重要性

<要旨>

  1. 厚生年金保険等の加入指導は、平成27年度から、国税源泉徴収義務者情報に基づいて行われている。
  2. 日本年金機構は、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合は、立入検査を行い認定による加入手続を実施する。 」としている。
  3. 認定による加入が行われた場合、過去2年に遡って社会保険料が徴収される可能性がある。
  4. 「従業員」がおらず、代表者のみに対して報酬を支払う会社であっても、適用事業所となる。
  5. 法人税等の法定実効税率が約21~34%であるのに対して、厚生年金保険と健康保険を合わせた社会保険料の料率は約30%と大きな差がなくなっており、タックスプランニングとともに、社会保険料認識の重要性が高まっている。
  6. 年間の報酬額は一緒であっても、報酬の支払方法によって、社会保険料が変わってくる。

<詳細>

日本年金機構は、平成27年度年度計画において、厚生年金保険・健康保険等の適用促進について、「平成27年度以降の3か年において優先的に職員による加入指導等に取り組む」としました。具体的には、調査手法では、これまで見られなかった手法が導入され、「国税源泉徴収義務者情報」すなわち、税務当局の持つ給与等支払者の情報に基づき、「文書勧奨」や「加入指導」を行うこととされました。

さらに、「加入指導を複数回実施しても加入の見込みがない事業所」に対する「立入検査」及び「認定による加入手続」は、平成27年度は「必要に応じて」実施するとしていたところ、平成28年度年度計画では、「最終催告状を送付しても加入に応じない場合」と明確化されました。

すなわち、日本年金機構は、最終催告状を送付しても加入に応じない場合には、職権により認定による加入手続(厚生年金保険法18条2項ほか)を行いますが、この場合、最大、2年間に遡って保険料等が徴収される可能性があります。これは、保険料等の徴収金の消滅時効が2年である(厚生年金保険法92条)ためです。

ところで、厚生年金保険の目的は、「労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上」(厚生年金保険法第1条)にありますが、「労働者」のいない役員(例えば、代表取締役)のみの会社であっても、厚生年金保険の適用はあるのでしょうか。この点、広島高裁岡山支部(昭38・9・23、高裁判例集 第16巻7号514頁)は、憲法25条(生存権)の趣旨を踏まえると、同法において労使間の差異を考慮する必要はなく、「厚生年金保険法第九条にいう事業所に使用される者とは、法人の代表者を含むものと解すべき」としました。すなわち、国民の生活の安定と福祉の向上のためであるから、代表者であっても、法人に使用される者から排除されないと判断したわけですね。こうした司法判断もあり、「法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であって、他面その法人の事務の一部を担任し、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、被保険者」(厚生労働省昭24・7・28 保発第74号)となる運用が続いています。

以上の外部環境を踏まえると、従業員のいる会社の経営者のみならず、取引における信用力や各種税制上のメリットを踏まえて、法人成りを選択した、あるいは法人成りを選択する経営者にとって、社会保険料を認識する重要性は高まっているといえます。実際、法人所得に対する法定実効税率は、資本金1億円以下の会社で、21.42%(法人所得400万円以下の部分)から33.8%(法人所得800万円超の部分)であるのに対し、社会保険料は、報酬あるいは賞与に対して、29.872%(東京都、40歳~65歳、平成28年9月分、健康保険組合ない場合。報酬等を受ける方の負担分含む。雇用保険・労災保険除く。)と同程度です。例えば、株主でもある役員に対して、配当ではなく役員報酬を支払うことによる法人税等の減額効果と社会保険料の増額の程度は、同程度になっている可能性があるといえます。

では、法に基づき社会保険料を支払う中で、経営に与えるインパクトを緩和することは可能でしょうか。厚生年金や健康保険の保険料は、報酬月額あるいは賞与額に基づき定められた標準報酬月額あるいは標準賞与額に保険料率を乗じて算定され、税のように控除項目が定められていないことから、その余地はほとんどありません。ただし、標準報酬月額や標準賞与額には上限があることから、年間の報酬等の総額は同じであっても、支払方法によって、社会保険料が変わってくることがあります。また、現在の法令において、退職金(前払退職金等を除く)は、厚生年金保険法や健康保険法にいう「報酬」や「賞与」や含まれないと解されていることから、税務上の過大役員退職金の問題に留意しながら、報酬や賞与と、退職金とのバランスを見直すことにより、社会保険料を変えられることがあります。